最終話
サプライズで大金がかかったショーを幼馴染のために披露したマルサス様はエリナさんに感謝されるとびっくりしたような表情をされ、目をパチパチしていました。
「ここは、エリナの結婚式会場だったの?」
「まぁ、マルサス様ったら、そうやって惚けないでくださいよ。あの時のことはもう忘れますから」
「素敵なショーをありがとう。一生の思い出にするよ。君がエリナのことをどんなに想っていたのか伝わった。こんなこと、中々出来ることじゃないからね」
いつの間にかローウェル様も出てきて、マルサス様にお礼の言葉を述べました。
そうですよね。
どんなに安く見積もっても億単位のお金がかかっていますし、振られた幼馴染の結婚式を祝うために奮発する金額の限界を超えています。
「いや、じゃなくて。リュオン殿下はどちらに?」
「あー、なるほど。リュオン殿下への挨拶も兼ねていたのか。殿下ならあちらの席に。婚約者のルティアさんも一緒だよ」
「マルサス様、内緒にされていたのですから、知らなかったことをそこまで気にされなくても良いのでは? ルティアさんだって、そこを責めることはありませんよ」
「る、ルティア!? こ、こ、婚約者!? リュオン殿下の!?」
マルサス様、私の名前を叫んで腰を抜かしていませんか?
真っ青な顔をして幽霊を見たような表情で私の顔を指差していますけど。
私がいることがそんなにも意外だったのでしょうか?
「だ、大丈夫ですか? ルティアさんのこと、ご存知ありませんでしたの? それでは、リュオン殿下にはどんなご用事で?」
「いや、だからさ。そのう――」
「リュオン様~~! リュオン様~~! わたくしですわ! オリビアですの!」
エリナさんが腰を抜かしているマルサス様に対して心配した様子で話しかけていますと、甲高い女性の声がしました。
リュオン殿下の名前を呼んでいますね。
……お、オリビア様って、こ、この国の第二王女のオリビア様ですか。リュオン殿下の元婚約者の。
「リュオン様~~! やっと見つけましたぁ! お久しぶりですぅ!」
「オリビア殿下ですか。あなたが駆け落ちしなければ久しぶりの再会にもなりませんでしたが、なんの用事です?」
冷たい視線を送るリュオン殿下ですが、オリビア様はヘラヘラ笑っています。
この方、駆け落ちしたことを微塵も悪いことだと思っていないのでは?
そもそも、本当に何をしに来られたのでしょう。
「えへへ、わたくし、リュオン殿下と結婚して差し上げます! さっきのショーみたいにドラマチックで素晴らしい愛を育みましょう!」
結婚して差し上げます? ここに来て、上から物を言うオリビア殿下に私は頭に来ました。
謝りもせずに、この人は何を考えているのでしょう。
「オリビア殿下、リュオン殿下は私の婚約者です。お言葉ですが、あなたのされていることは非常識極まりありません。リュオン殿下にあまりにも無礼です」
「はぁ~? 無礼なのはあなたですわ。新しい婚約者って、こんな田舎臭い女でしたのね。リュオン殿下も趣味が悪いですわ~」
「君みたいな人間に悪趣味だと言われたところで怒りすら湧きませんね。衛兵は何をしている? さっさとこの不快な女を連れ出せ!」
「「はっ!」」
リュオン殿下は、冷たく彼女の言葉をあしらい、衛兵たちに指示を出しました。
衛兵たちは、オリビア殿下を拘束して強制退場させようとします。
「ちょ、ちょっと! あ、愛の伝道師様の言うことと違いますわ! マルサス様! マルサス様はどこですの!」
何故か、ここでマルサス様の名前を出して叫ぶオリビア殿下。
マルサス様とオリビア殿下、何か関係があるのでしょうか。
というより、いつの間にかマルサス様がいなくなっています。
「マルサス様の侍女のアネットさんが、彼はお腹を壊したみたいだから、帰るって。お幸せにって。どう見ても、マルサス様、アネットさんにお腹を殴られていたけど」
帰られてしまったのですか。
絶対にこちらに絡んでくると思っていたのですが、彼もリュオン殿下とのことを知ってようやく諦めてくれたということですね――。
◆
一体何がどうなっているのか。
あれから結婚式自体は無事に終わったのですが、色々とその後が大変だったみたいです。
なんせ、オリビア殿下がいきなり現れてリュオン殿下に求婚したのですから。
両国間の関係は一気に緊張感が増しました。
なんせルーメリア王国は二度やらかしたことになるのですから。厳しい批判が起こるのは必然です。
しかし、これに待ったがかかりました。
マルサス様の侍女であるアネットさんが調査報告書なるものを提出したのです。
その報告書には今回の件の首謀者はルーメリア王国と戦争を起こさせて、利益を上げようとしたこちらの国の武器商人ギルドであり、ゲイオスという王宮の使用人を使って騒動を企てたと書いてありました。
マルサス様はそれをいち早く察知して、カムフラージュも兼ねてあれほど豪華なショーを催し、裏でアネットさんにゲイオスの周りを洗わせていたのだそうです。
つまり両国どちらともに過失があり、この件は痛み分けとなりました。
もちろん、武器商人ギルドは解体、オリビア殿下は下流貴族の養子に出されて王族権は剥奪と厳しい処分は下りましたが。
「あのマルサス様が英雄になるとは分からないものですわ」
「そういう星のもとに生まれた人もいるということです」
「ですが、その後、この国に戻られないのには何か理由があるのでしょうか?」
マルサス様は行方不明になってしまいました。
テスラー伯爵は勘当するという宣告はなかったことにすると言っているのですが、家に一向に戻られないみたいです。
「どうやら、多額の借金を抱えた上に、この国のならず者たち殆ど全員に目を付けられて帰ることが出来なくなったそうだぞ」
「「お兄様!」」
兄のカインが会話に入って来られました。
マルサス様が多額の借金って、大金持ちになられたのではなかったのですか……。
「例の結婚式のショーなんだが、一発限りで終わらせるつもりではなく、定期的に公演するために劇団を作ったらしいんだ。さらに今後の運営を支えるためにレアポーションの原料が見つかったという鉱山を大借金して丸ごと買い取ってな。それが見事に不良債権になってしまったらしい」
「その借金が質の悪い方々を?」
「いやー、武器商人ギルド絡みの中にはヤバいやつも多いからなー、そっちに恨みを買ったみたいだぞ」
な、なんというスケールの大きい転落の仕方をされたのでしょう。
両国の戦争を止めて大手柄を上げたのに、肝心の凱旋が果たせないなんて、可哀想です。
「まぁ、お前はお前のことだけ考えろ。前の男がどうなったって関係ないんだから」
「わたくしはファンとして行く末を知りたいですけど」
そうですね。
私もリュオン殿下と来週には夫婦になります。
色々ととんでもないことがあって、どうしようかと思いましたが幸せになれそうです。
今後、大体のことには驚かないように耐性がつきましたし……。
マルサス様、どうかお達者で――。
病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ
~完結~
最後まで読んでくれてありがとうございます!
最終的に主人公マルサスじゃないかと思いながら書いていました……!
↓にある広告下の【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】をタップまたはクリックしてこの作品の【評価】をしていただけると嬉しいです!
※最後に大切なお願いがあります※
新連載を開始しました!
今度は自分なりに丁寧に書くことを意識した自信作です。
少なくとも、この作品よりはずっとちゃんと書いています!
『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』
https://ncode.syosetu.com/n8262hb/
↓の広告下のタイトルをポチッとして頂けると直接作品のページに飛べますので、読んでいただけると幸いです!




