君との出会い
PM.8:30
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピガチャッー
目覚ましの音が部屋中に鳴り響く。
「…んっ…いま何時?…は?8:30?ヤッベぇ、遅刻する!」
あれから10年の時が経ち、僕は16歳になった。
そして今日は高校の入学式だ。
みきちゃんはというとあの約束の翌日、
『ごめんね』
の置き手紙だけを残して突然消えた。
その後何処へ行ったのか、なぜ突然消えてしまったのかはまだわからない。でも時々僕は、あのみきちゃんを思い出してしまう。
「セーフ!間に合ったぁ」
「お前、ギリギリだぞ。入学初日から寝坊かよ」
話しかけてきたのは小学校の頃から何故かずっと一緒の幼馴染み、仲嶋俊介だ。僕が唯一普通に喋る事が出来るのはこの男くらいだ。
「うるせぇよ。ほっとけ」
「どうせまたみきちゃんの夢でも見てたんだろ?」
「…ちげーよ」
「うわ、図星かよ」
僕の記憶の中のみきちゃんはもう10年も経っているせいかいつも曖昧で、顔もはっきりとは思い出せない。パズルのピースが所々抜けてしまったように僕の記憶はいつまで経っても未完成なままだ。
「なぁ颯汰、あれ見ろよ」
「ん?なんだよ」
そこには車椅子で廊下を通る1人の女の子がいた。
綺麗にのびた髪、透き通るような白い肌、少し茶色がかった大きな目。綺麗だと思った。僕は眩い光に吸い込まれるように美しいと思った。
「あれ、俺たちと同じクラスの子らしいぞ。」
「そーなんだ。」
「まぁ結構可愛いけど、車椅子だもんな。歩けないのちょっとショックじゃね?」
「そういうの、やめろよ。」
僕は彼女に差別的な言葉を向けた俊介に何故か苛立ちを覚えた。
PM.9:00
聞き慣れないチャイムの音と同時にうちのクラスの担任らしき男が喋り始めた。
「それではホームルームを始める前に皆に少し、話しておきたい事がある。」
先生は深刻な表情で同じクラスの佐藤美樹について話し始めた。
「うちのクラスにいる佐藤美樹は車椅子生活なのは分かるな?彼女はある病気で歩くことができない。だから皆の協力が必要だ。彼女の手助けになってやってくれ。」
(…ある病気?)
そこにいたほとんどの人が思っただろう。重い病気なのだろうか。先生は病気について詳しくは教えてくれなかった。
彼女は入学式にも車椅子で来ていた。不自由そうにはしていたが、彼女は決して嫌で来ている感じでは無く、僕はなんとなく彼女の意志が感じられた。
入学式の後、彼女の周りは多くの人で囲まれていた。彼女はどんな人にも笑顔で質問にもきちんと答えていた。中にはどんな病気なのかを聞く無神経な人や可愛いねと声をかける男子、嫌味を言う奴も沢山いたが、そんな人にまで丁寧に優しく接していた。
それまで彼女を差別的に見ていた人達も彼女の明るい一面を知り、多くの人が彼女に興味を持ったようだった。
その時僕は、自分とは正反対な彼女がとても輝いて見えた。皆を照らす太陽のような彼女を不思議と目が追ってしまっていた。
「美樹〜?一緒に帰ろ!」
「うん、そーだね。私そろそろ帰らなきゃ。ごめんね。皆、また明日喋ろーね」
「私後ろ押すよ」
「押さなくていいよ〜紗枝。自分でやるから」
「いいからっ!」
「わかったよ、ありがとう。」
車椅子を押すのは彼女の親友、山口紗枝だった。
山口さんもまた僕らと同じクラスだ。いかにもお節介焼きな人といった感じで、彼女を常に心配する様子はまるで母親のようだった。僕が1番苦手なタイプで、関わる事はないだろうと思った。
それが僕が最初に2人に会った時の印象である。
僕はこの時初めて人に興味を抱いた。