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オルフェウス

作者: N(えぬ)
掲載日:2020/05/30

 そう遠くない未来のこと。ある男が家電量販店に行ってテレビを買おうと思った。はやりの高解像テレビだ。それと一緒に、ネット経由で映画などが見られるサービスに加入したいとも思っていた。それらが快適に使える機種をと思い店員に聞いてみた。


「ああ、そういうことでしたら、今一押しの商品がございますよ……こちらです」店員は、男の先に立ってスタスタと、とある大型テレビの前に立った。男は店員が手で指すテレビを見たが、聞いたことも無いメーカーだった。

「オルフェウスシステムといいます。これはテレビ本体に現在あるネットサービスの機能がほとんど網羅されています。その上でオススメしたいわけは、この会社独自のエンタテイメントソフト配信サービスが受けられる点です。オルフェネットというんですが、これはこのテレビでしか受けられないサービスなんです」


 店員がなめらかな口調で説明するが、男は少々、この手の話には疎かったので、よくわからない。

「とにかく、何でも見られるってワケかな?」

「まあ、言ってみればそういうことですね。オルフェネットの説明をさせていただきますね」ここで店員は一息置いて唾を飲み込み、呼吸を整えてから話し出した。

「これはオルフェウスシステムという会社が製造販売していまして、独自制作の映画、テレビ番組などの作品を配信しています」

「独自制作?それじゃあナァ。僕はそういうのにはあんまり興味が無いんだよ」

「そういわずに、説明だけでも聞いてみてください。損はさせません」

「そぉ?……」


「はい。それでですね。このオルフェウスシステムでは、歴史上の多くの小説、映画、テレビ番組を会社名ともなっている「オルフェウス」という巨大コンピューターに読み込ませまして、人間がおもしろいと思う物語、映像作品とはなにかを人工知能で解析しているんです。そして、そこから得られた結果に基づきまして、まず物語を生成します」ここで店員はそばの展示台にある本を手に取って見せ、

「この本、ご存じないですか?今ベストセラーになっている推理小説ですが」

「ああ、読んだよ。驚くほどおもしろかった。ストーリーもトリックも斬新だったし。新鮮なおもしろさがあったなあ。新人作家だよね書いたのは」

「はい。新人も新人。この本を書いたのはオルフェウスなんですよ!」


「ええ?!人間じゃ無いのか?

「そうなんです。作者名はオルタ・ウスジロウなんて名前になっていますが、これは適当に付けられた名前だそうです。そして、この本を映画化したものがオルフェネットで配信される予定です」

「え、もう映画化されるんだ。早いな」

「はい。オルフェウスシステムは、原作小説を生成すると、そのまま自動的に脚本を生成。さらに登場人物などをフルCGで生成しまして、演出も自分で行って、映画を作り上げてしまうのです」

「そんな……そんなことできるんだ?」

「はい。お客様がご存じだろう、過去のあらゆる文豪、映画界の巨匠、大爆笑のバラエティ番組などの技巧やテイストを吸収していますから、アッという間に名作、大作が作れます」


「それはすごいな……そこまで進んでいるなんて驚きだよ。ああ、でも出演者もCGってことは、言ってみれば知ってる俳優とかは出てこないってことだよね?それはつまらない気がするな」

「と、思いますよネェ?今、ここに映っているのはオルフェネット配信しているドラマですが、どうですか、ごらんになって?」

「ああ、すごく自然だし。CGだなんてとても思えないなこの女優。スゴイ魅力的だ……あ、あれ?でもなんか、どっか懐かしいような気もするなあ。妙な気分だよ。ほんとにCGなのか?」

「はい。オルフェウスは、映画作成の際に登場人物をCGで作り出しますが、それらの下地になるのは、過去、現実に人気のあった名俳優です。それらのデータを読み込んだ上で、人気が出そうな俳優をこのように生成するのです。それで、実は……こんなことも出来ます」


 店員はテレビのリモコンを手にするとなにかのボタンを押した。すると画面上にメニューが出てきた。

「今画面にメニューが出ていますが、これで主演俳優などのタイプを変更することが出来るんです。性別、年齢、体系、顔形もやろうと思えば細かく指定できます。あんまりやると変な感じになっちゃうんですけどね、ハハ。だから、どの映画やドラマも、自分の好きな俳優主演で観たい!なぁんてことも出来るんですよ!」

「その話を聞いたら、なんか欲しくなってきたよ、これ。でも、この値段、ほかのテレビの倍くらいするね……」

「ええ。これだけのシステムですので、今出始めでして……。でも、これはお買いになったお客様、皆さん満足してらっしゃいますよ。それとですね。配信予定として番組ジャンルもドンドン増えていますし、ニュースや天気予報も放映されます。お客様、お好きな女優はだれか?」

「ううん。イシザカ・サトコなんかいいなと思うけど。あとはアラタニ・ユウとか……」


「そうですか。いいご趣味です。で、もし毎朝、仕事へ行く前にテレビをつけたとき、ニュースの司会がイシザカ・サトコ似、天気予報コーナーがアラタニ・ユウ似だったら楽しくありませんか?占いコーナーはこの人で!なんて設定もいいですよ。実は私はこのオルフェウスシステムを買って、毎日楽しくてしかたありません」

「そうか、そんなこともできるんだ……か、買うよ。どうせなら一番いいセットをくれ」

「はい。ありがとうございます!」店員は男に深々と頭を下げた。


 「オルフェウスシステム」はこのあと売れに売れた。一般のテレビ局が放映する番組など相手にされなくなった。過去のデータを蓄積しながらその内容を充実させ続けるオルフェウスには人間が対抗するのは難しかった。チェスや将棋の勝負は人対人でも、そこにある人間性に面白みがあったけれど、小説や映像作品が見せるのは結果としての人間性だったので、制作する上での質の高さが人間を上回った時点で、人間にほとんど勝ち目は無かった。


 数年でオルフェウスシステムは一家に一台がほぼ標準的となり、その重要性が地球規模のものとなった。配信が途切れないよう、重層の防御及びバックアップシステムが装備され、無停電の独自電源を確保された。

 システムの内部ソフトウェアも自律バージョンアップを繰り返し、充実していった。


 さらに数年が経ったとき、オルフェウスシステムは、人間向け映像ソフトとしてコードネーム「Z1」シリーズをリリースした。

 これは、ストーリーが無く、一見無関係と思える映像の連続だが、それを見た人間は「感動の涙を流し」「腹を抱えて笑い」あるいは「恋の苦しみを味わい」「人生の辛酸を知った」

 そう。オルフェウスは、「人に、特定の感情を湧き上がらせる映像」を生成することに成功したのだ。

 この映像ソフトは世界中に受け入れられた。そして、これを切っ掛けにオルフェウスは、映像や音で「人の感情をコントロールする」ことを研究し始め、それは成功した。ほぼすべての人は、怒りを感じても暴力に訴えることがなくなった。犯罪は激減し、紛争は消えた。穏やかな平和の日々がやってきたのだ。



「はい。この日のことを『消戦記念日』といいます。ここはテストに出ますよ~、覚えておいて~」社会科の教師が子ども達に言った。すると少年の一人が手を上げて、

「ウチのパパは、「人間の敗戦記念日」だっていってました!」そういった。社会科の教師はそれを聞くと苦笑いをしながら、下手くそなウィンクをして、

「ああ、そんなこという人も居るね~。でも正確にちゃんと覚えてください~。いいですか、オルフェウスは戦わずに人間に勝利したのです」


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