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09

「あの…テオドーロが…ごめんなさい」


よく手入れされた庭園は色とりどりの花が咲き誇っていた。

その中にある東屋にパトリックと並んで座り、ティーカップにお茶が注がれるのを見ながら私は言った。


「ああ。彼はいつも俺を睨んでくるな」

気にする風もなく、ティーカップを手にしながらパトリックは答えた。


「本当に…ごめんなさい」

「———まあ、仕方ない。彼は君に惚れているからな」




「え…?」

私はティーカップを取ろうとした手を止めた。


惚れて…?

…だって…テオドーロは私の…


「姉弟なのに…?」

「———ああ、説明されていないのか」

カップを置くと、パトリックは私を見た。

「彼は元々は従弟だよ」


「いとこ…」

「シアと俺の婚約が決まって、ベルティーニ伯爵家の後継が必要になったから彼が養子に入ったんだ。確か伯爵の姉君の、三男だったはずだ」


「そんな事…聞いていない…です…」

目を覚ました時に弟だと名乗ったし、家の者もそれ以上の事は何も言わなかったら…本当の姉弟だと思っていた。




「そうか、知らなかったか」

ふ、とパトリックは息をついた。


「テオドーロには気をつけるんだ。彼は君を望んでいるからな」

望むって…それは…


「王命である以上俺達の婚約は覆らないけれど、同じ家に住んでいるのは心配だ」

伸びてきた手が私の頭を撫でた。


「変な事はされていないな」

「…はい」

「何かあればすぐに言って欲しい」

こくりと頷いた私の頭をもう一度撫でる。

「本当は一日も早く結婚したいが、まだ学生の身だからな」


「結婚…」

「できれば君が学園を卒業する時にしたいな」


———婚約の先に〝それ〟がある事は、分かっているつもりだけれど。

まだずっと先の事だと…自分の身に起きるという実感を抱くにはほど遠いものだった。

それに記憶が戻らないのに…本当に結婚など、出来るのだろうか。



「シア?」

思わず俯いた私の顔をパトリックが覗き込んだ。


「…俺と結婚するのは嫌か」

暗い声にはっとする。

「いえ…そうではなくて…」

私はゆるゆると首を振った。


「私…記憶がなくて…家の事も分からないのに結婚なんて…大丈夫なのでしょうか」



「そんな心配はいらない」

大きな手が私の手を握りしめた。


「分からない事はこれから覚えればいい。記憶など、これから作っていけばいい」


目の前の緑色の瞳は吸い込まれそうで…ぼうっと見つめていると、緑の光が消えて。

すぐに額に柔らかなものが触れた。


「…あ…」

触れたものが唇と気づき、顔に血が昇る。


「シア。君と結婚するのは俺だから」

優しさと熱を含んだ瞳が私を見つめてそう言うと、もう一度パトリックは私の額に口付けを落とした。

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