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09

(レベッカ視点1)



何で———よりによって、このゲームなんだろう。


学園を見上げた瞬間、前世の記憶がなだれ込んできて…その情報量に混乱しながらも私は思った。


入学式の朝だった。

校舎に既視感を覚えて…そこから全てを思い出すのはあっという間だった。

———その前に何回かここに来ていたのに、どうしてその時は思い出さなかったのだろう。



日本で大学に通っていた。

勉強はそこそこに、ゲームやアニメなど趣味に勤しんでいた、いわゆるオタクだった。

乙女ゲームも幾つも遊んだのに…何で、よりによって攻略対象が皆面倒くさいゲームに転生しないとならないのだろう。


死ぬ間際に遊んでいたからだろうか。

三人目の王子ルートをクリアするのに徹夜してしまった。

寝不足のまま大学へ向かい…多分、車に轢かれたかしたのだろう。


ゲームの世界に転生する小説や漫画は好きで読んでいた。

だけどまさか自分の身に起きるなんて———しかも、ヒロインに転生するとは。



攻略したくない。


自分が置かれた立場を悟り、すぐ強く思った。

今は入学式の朝…ゲームスタートだ。

確かここでイベントがあったはず…そうだ、転ばされるんだ。


通路の端へ立ちしばらく様子を見ることにした。

すると一人の男子生徒が走ってきて、女子にぶつかりそうになっていた。

隣の男子が腕を引いたから転ばなかったけれど…すぐにその女子の前へ、二人の攻略対象———腹黒王子とドS子息が現れた。


四人は何か話していて…これはもしかして、イベント回避できたのでは?


私はそっと四人の脇を通り抜けようとした。


「…ヒロイン?」

ふいに聞こえた小さな呟きに、おもわず声の主、殿下達に囲まれていた女子を振り返った。



とても綺麗な子だった。

丁寧に編み込んだダークブロンドの髪、女の私でも庇護欲をそそられそうな、白くて華奢な身体。

キラキラしたサファイアブルーの瞳が私を見つめていた。


こんな綺麗な子…ゲームには出ていなかった気がするけど。

それに今、〝ヒロイン〟って言った?

そんな言葉はこの世界にはない。

それを知っているのは———私と同じ、転生者?



彼女は入学式へ移動する直前に教室へ入ってきた。

同じクラスなのか。

一緒にいる、彼女と同じ色彩をもった男子も…モブとは思えないくらい、とても顔が整っている。

美形二人の登場にクラスが一瞬騒ついた。


「誰…?」

「ほら…留年された方よ」

「留年?」

側から聞こえてきた言葉に思わず聞き返した。


「あの方はアレクシア・ベルティーニ様。王子様達の従妹で生徒会長の婚約者なの」

話をしていた女子の一人が教えてくれた。

「本当は二年生だけれど、病気で記憶喪失になってしまったんですって」

「まあ、かわいそう…」

「一緒にいるのはきっと弟のテオドーロ様ね」

「お綺麗な姉弟だわ…」


生徒会長…って攻略対象の?

その婚約者———ゲームには出てこなかったはずだけれど。

記憶喪失?留年?

どういう事?



ゲームとの相違に戸惑ったまま入学式が始まった。

…入試を受けた時に思い出していれば手を抜いたのに。

最高得点を出してしまったらしく、代表で挨拶をする事になっていた。

これはゲームにもあるくだりで…攻略対象の生徒会長に存在を認識されるのだ。


壇上に立ち、挨拶を読み上げ…最後に私は私が座っていた席を見た。

その背後にはアレクシアが座っている。

私と視線が合うと、びっくりしたように肩がピクンと震え、青い瞳が大きく見開く。

その猫みたいな仕草に思わず笑みがこぼれた。



その日の予定が全て終わると、教室に生徒会長で攻略対象のパトリックが現れた。

仲睦ましげにアレクシアと会話をしている。

…この二人って、口もきかないほど仲が悪いんじゃなかったっけ。


気になるので彼らの後を追って教室を出ると、馬車止めの所で殿下達と遭遇していた。


アレクシアの肩を抱くパトリックと、顔を赤らめて彼を見上げるアレクシア。

…ラブラブじゃないの。

何で?どういう事?!




翌日。

ゲームとは関わりたくないけれど、どうしても気になるので私はアレクシアに接触した。

やはり彼女も転生者で、私同様、昨日前世やゲームの事を思い出したという。

そして記憶喪失になり原因を忘れたため、今はパトリックと仲が良いのだと。


良かった…ゲームの強制力はないんだ。

これでパトリックはアレクシアがしっかり捕まえて、他の二人と接触しなければゲームは回避できる。

せっかくだから前世で好きな声優がやっていた担任のアラン先生を狙うのはどうだろう。

声がゲームと同じでビックリしたのよね。


同じ前世持ちで美人な友達ができて、ゲーム関係なく恋をしたりして学園生活を楽しめる!

———そんな私の計画は、けれどあっさり崩れていった。

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