05
「姉上、大丈夫?」
テオドーロは私をベッドに寝かせると、額に手を当てた。
「ああこんなに熱が上がって…。やっぱり会わせるんじゃなかった」
「…大丈夫です」
「大丈夫な訳ないだろう」
そう言ってテオドーロはため息をついた。
「あいつ…姉上に触れやがって」
「あの…私は…パトリック様と本当に…仲が悪いのですか?」
さっきの振る舞いを見ているとそうは思えなかった。
「本当だよ。父上達にも聞いてみればいい」
「でも…優しかったです」
「あいつを信用しちゃ駄目だよ」
眉をひそめると、テオドーロは私の顔を覗き込んだ。
「急にあんな行動してきて。何を考えてるか分からないけど、心を許したら危険だよ」
「危険…?」
そんな人には…見えなかったけれど。
彼はいつもはクールに装っているけれど、本当は寂しがりで…それで…。
ああ、まただ。
また遠い…これは私の記憶?
どうして自分の事は思い出せないのに、パトリックの事は知っていると思うのだろう。
私の中にあるアレクシアではないらしい、この記憶は…一体、誰のものなのだろう。
「姉上。苦しいの?」
心配そうなテオドーロの顔。
「…眠くなってきたみたいで…」
熱と誰のものか分からない記憶で、頭の中がぼうっとする。
「疲れたんだね。おやすみ」
頭を撫でる手が心地良い。
「———よ、シア」
眠りに落ちる直前、かけられた言葉とともに頬に何か柔らかなものが触れたような気がした。
『———。あのゲームやってる?』
『やってるよー。パトリック攻略出来た!』
『おお、おめでとー』
『でもあのハッピーエンドはちょっとモヤるんだけど』
『だよねえ。この後大変だよきっと』
『ねえ。———ちゃんは?』
『私は最後の腹黒王子攻略中なんだけど、ホント難しくて』
『らしいね。てかこのゲーム三人とも難しいし性格とかめんどくさくない?』
『思うーこじらせ過ぎだよね』
『精神的に疲れるから途中で息抜きに別の甘々なゲームやっちゃったもん』
『あー分かるー。甘さが足りないんだよね。心を開けばラブラブになるんだけどそこまでが大変』
『ホントー。リアムは何度も心が折れそうになったし、パトリックも…』
目を開けると白い天井が見えた。
オレンジ色に染まった壁…もう夕方になったようだ。
…今見ていた夢は…過去の記憶?
少女と話をしていた。
二人、紺色の同じ形の服を着て、四角くて薄い、小さな箱のようなものを手に持ちながら。
その箱には何かが描かれていて…
あれは確か…
「スマホ?」
口にしてから首を傾げる。
スマホ…知ってるような気がするけれど、何だっけ。
それにあの少女も…知っている気がする。
名前は…確か…
「…思い出せない」
探ろうとするほど記憶は遠くへ行ってしまう。
けれどあの夢も、この記憶も『アレクシア』のものではない事は分かる。
夢の中の黒髪の…あれは私だったのだろうか。
謎の記憶を持つ私は…一体、何者なのだろう。