06
痛い。
身体中が痛い。
足が焼けつくように熱い。
どうして…何が…
そうだ。
思い出した。
全て———私は……
「シア?」
声が聞こえる。
「シア!良かった、目が覚めたんだ」
私を見下ろす人物へ焦点が合わない視線を送る。
「シア…大丈夫?僕が分かる?」
「…テオ…」
「苦しい?痛い?」
「い…た…」
「階段から落ちたんだ…意識が戻って良かった…」
階段…そうだ、私は…
「…ブリジット…さまは…」
「———足を捻っただけだ。何であんな女を助けたんだよ」
無事…良かった。
ふ、と息を吐く。
「今医者を呼んでくるから」
私の手を握るとテオドーロは部屋を出て行った。
ここは…学園の医務室だろうか。
ゲームの画面で見覚えがある白い部屋。
階段から落ちて運ばれたのだろう。
後頭部がズキズキする。
落ちた時に打ったのだろう。
その衝撃で…思い出したのだろうか。
———記憶をなくす前の事を。
確かに私は殿下が好きだった。
幼い恋だったけれど…永遠の愛と未来を誓うほどに、私達は真剣だった。
けれど…
バタバタと複数の足音が聞こえた。
「シア!」
パトリックが飛び込んできた。
「シア良かった…」
「動かさないで下さい」
私を抱き上げそうな勢いのパトリックを制したのは…確か学園の医師…
「頭を強く打っている可能性が高いので、急に動かしたら危険です」
「危険?」
「アレクシア嬢。私を見て下さい」
医師の声に視線を送る。
しばらく私の身体を調べて、医師は背後で不安そうに見守っていたパトリックとテオドーロを振り返った。
「意識はしっかりしていますが油断はしないように。しばらく安静にして変化を見逃さないようにして下さい」
「家に帰っても大丈夫ですか」
「馬車は負担がかかりますが、揺れを少なくして横になった状態ならば…」
「では王宮の馬車を手配しよう」
扉の方から声が聞こえた。
「あれなら横になれるし安定しているから大丈夫だろう」
目線を送ると、殿下とブリジットが立っていた。
殿下は一瞬私を見ると、護衛であろう、背後へ何か話しかけている。
ブリジットがベッドへ駆け寄り、膝をついた。
「アレクシアさん…!ごめんなさい、私のせいで…」
「…ブリジット様が…無事で良かったです」
笑顔で答えようとしたけれど…声を出そうとする度に走る痛みのせいで上手く笑えない。
そんな私を見てブリジットは痛ましそうに眉をひそめた。
「痛み止めを飲んでください。少しは楽になります」
医師が差し出したのは、黒っぽい小さな丸い玉だった。
この世界で薬といえば薬草などを煮たり細かくした、漢方薬のようなものだ。
それを私の口へ入れると、吸いのみで水を注ぎ込む。
飲み込むと苦い味が口の中へ広がった。
…ああ…そうだ。
あの夜も…こうやって飲まされたんだ。
苦味とともにレモンの香りのする……
「痛みが酷い時はこれを飲ませて下さい」
医師は余った薬をテオドーロに渡した。
「明日主治医に診せて下さい。容態を書いたものを渡しますので…」
くらりと目眩を覚え、医師の声が急に遠のいた。
戻った記憶が波のように頭の中を渦巻く。
怖い…苦しい。
…誰か…
「…リック…」
「シア?どうした」
心地の良い声を求めるように、手を伸ばしたいのに…力が入らない。
「シア」
わずかしか動かない手を大きな手が包み込んだ。
「シア…辛いか…?」
もっと触れて欲しい。
抱きしめて欲しい。
この不安から守って欲しい———
「…リ…」
闇に吸い込まれるように意識が遠のいていった。