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09

「そうだったの…」


私の話を聞き終えて、レベッカは息を吐いた。

「アレクシアの方がヒロインみたいね」

「…嬉しくないわ」

「それで、アレクシアは誰の事が好きなの?」


「私は…パトリックが好きよ」

過去に殿下の事をどれだけ好きだったとしても。

テオドーロにいくら想いをぶつけられても。

今の私が望むのは…あの人だ。




「そう…あのね」

レベッカは開いた口を閉じて———また開きかけて、何か言いにくそうにしている。


「何?」

「うん…これは憶測で…違ったら悪いから言うべきか迷ってたんだけど。でも〝そう〟だったら知らせておくべきだし…」

歯切れの悪いレベッカに首を傾げる。


「あくまでも、仮定の話として聞いて欲しいんだけど」

「ええ」

「この間の言っていた、記憶をなくした時の症状…あれ、心当たりがあるって言ったでしょう」


「ええ」

確かゲームの中に出てきたようだと言っていた。

「それはね———」

琥珀色の瞳が私を見据える。


「毒なの」




「どく…?」

「神経毒の一種でね、毒草から採れるんだけど。身体を麻痺させるのと、高熱を出すのよね」

思い出すように、レベッカは視線を宙に向けた。


「殿下のルートで、ある女生徒がそれを飲んでしまう事件が起きて、殿下と一緒に解決して仲を深めていくっていうイベントがあるの」

「…その女生徒って…」

「アレクシアではないと思うわ。生徒会長の婚約者ならそう書かれているはずだもの。でもね」

レベッカは再び私を見た。

「その女生徒は高熱の影響で毒を飲んだ前後の記憶を失ってしまうの」

「え…」

「それで飲ませた犯人が分からなくて謎解きが難航するのよね」

「その犯人って…?」

「一年の男子生徒で、その女生徒が好きだったんだけどその子には婚約者がいて。毒を飲ませて動けなくなった間に拐おうとしたのよね」

ドクン、と心臓が大きく鼓動する。

…何か…思い出しそうな…


「で、その毒草っていうのが珍しいもので、ある領地でしか採れないものなのよね。それでその犯人は、別の生徒からその毒をもらったらしいの」

「…別の…生徒」

「ゲームではそれを渡した生徒の方は結局分からなくて…アレクシア?」

レベッカは私の顔を覗き込んだ。


「ごめん…あくまでもゲームの話よ。私が関係あるかもって思っているだけだから」

「ん…」

おそらく私の顔色は悪くなっているのだろう。


「ごめんね…病み上がりなのに。言わないほうが良かったわね」

「…ううん。教えてくれてありがとう」

首を振ると私は笑顔を作った。

確かに…これが私と関係がある事だった場合、知っておくべき事だろう。


「他に…その毒の事で分かる事はある?」

「そうね、後は…ああ、レモンに似た香りがするってあったわ」


仮にゲームと同じものだったとして…どうして私が毒なんか…

ぞくりと首筋に寒気が走った。




「一応その毒について調べてるんだけど、まだ分からないの。…それじゃあ学園でね」


レベッカが帰った後も、私は心が落ち着かず…それは夜中になっても同じで。

「眠れない…」

ほのかな灯りに照らされた天井を見つめながら、声に出して呟いた。


本当に…もしも私の記憶喪失の原因が毒だとしたら?

いつどこで飲んで…どうして毒なんか…誰に…


「誰…かに…?」

飲まされた?


ドクンと心臓が震えた。


どうして…そんな事。



心臓の鼓動が早くなると共に喉の渇きを覚えて私は起き上がった。

ベッドサイドに置かれた水差しを手に取る。


水が喉を潤していく。

…そういえば最近はただの水なのね。あのレモンが入っている方が…


『レモンに似た香りがするってあったわ』


蘇ったレベッカの言葉に喉がひゅっと鳴った。



レモンの香り?

この水…夜、喉が渇いた時のために毎晩置かれる水。

いつもはレモンの香りがする水で…でも最近は…


いつもって、いつ?

必死に記憶を思い出す。


———ただの水になったのは、熱が下がってからだ。

いや違う…元々ただの水だ。

それがレモン入りになったのは…マルゲリットに叩かれた後で…ずっと熱が下がらなくて…


身体を麻痺させて高熱を出す、レモンの香りがする毒草…

私が記憶をなくした時も身体が麻痺していて…

最近も麻痺はしなかったけれど…微熱と、身体が重くて…


「そんな…はず…」

ある訳ない。

この部屋で毎晩飲んでいる水に…そんな事があるはずは———


否定したいのに、身体の震えは一晩中止まらなかった。




第四章 おわり


次章、ヤンデレ本領発揮


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