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03

「アレクシア。具合はどうだ」

弟のお世話攻撃でぐったりしてしまい、再び横になっていると両親が部屋に入ってきた。


「はい…大丈夫、です」

「本当か?」

心配そうに顔を覗き込む父は、四十歳になっていないだろうか、若々しい顔立ちだ。

その後ろに立つ母も美人で…まだ二十代と言っても通じそうだ。

確かに二人は鏡に映る私と似ているけれど…両親だという実感が湧かない。


「可哀想に…早く熱が下がってくれるといいのだけれど」

額に触れた母の手はひんやりとして心地良かった。



「しかし、学園が休み中で良かった」

「でも始まっても、記憶がなくては行かれないではありませんか」


「学園…?」

「ええ。来月からテオドーロも入学するのよ」

…学校があるんだ。

十六歳で入学という事は高校みたいなのかな…。


…コウコウ?

…あれ…何だっけ…?


「アレクシア。大丈夫、無理に行かなくてもいいのよ」

私の頭を撫でながら母が言った。

「それよりも身体を治す事を優先させましょう」

「…はい」


私の発熱の原因は分からないらしい。

前日まで何の異常もなかったのに、朝、侍女が部屋に行くと高熱でうなされていたというのだ。


熱や身体の不調は安静にしていれば治るけれど、記憶が戻るかどうかは分からないという。

熱で記憶がなくなるという症例はほとんどないらしく、記憶喪失の治療方法というのもないそうだ。




「ところでアレクシア。午後にパトリックが見舞いにくる予定なのだが、大丈夫そうか」

「パトリック…?」

「あなたの婚約者よ、パトリック・アドルナート様」

「…あ…」

私は視線をベッドサイドに移した。


そこには大きな花瓶いっぱいに花が生けられている。

婚約者からの見舞いだ。



私の婚約者は一つ年上。

この国の筆頭貴族、アドルナート公爵家の長男だそうだ。


そんな立派な家の跡継が何故私の婚約者かというと、叔母が王妃だからだという。

将来国王の外戚となるベルティーニ家は裕福とはいえ、爵位は伯爵。

我が家を取り込んで王家に害をなそうとする勢力が現れるかもしれない。

そのため、筆頭貴族であり親国王派のアドルナート公爵家と婚姻関係を結ぶ事で王家を盤石にしようという…いわば政略結婚だ。



十七歳で既に将来の結婚相手が決まっているというのは…不思議な感覚だ。

そういう、家柄や政治的な関係で結婚するという事があるのは知っているけれど、自分みたいな庶民がそういう立場になるなんて…。


庶民?

———ああ、まただ。


目を覚ましてから、自分の事を知る度に心の奥でそれを何かと比較する自分がいる。

アレクシアではない、別の人物のその記憶は、こことは文化や価値観が異なっているようで…。




「アレクシア。まだ辛いかい」

考えこんでしまった私の顔を、父が心配そうに覗き込んできた。


「辛いのならばパトリックの訪問は断るが」

「…いいえ。大丈夫です」

父と視線を合わせて笑顔を作る。


婚約者か…どんな人なのだろう。

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