05
「…どうして…こんな事になっているのかしら」
並べられた色とりどりのケーキを前に、レベッカは呟いた。
「こんな展開、ゲームにはなかったのに…」
私とレベッカは王宮の中、王族のプライベートエリアにある庭園のテーブルに座っていた。
先日のサンドウィッチのお礼にと殿下から招待されたのだ。
私は記憶をなくしてからも何度か来ていたが、レベッカは初めてだ。
———子爵令嬢がこのような場所に来るなど本来ならばあり得ない事だという。
「ゲームでは違うの?」
「王宮に来る事なんてなかったわ」
「え、そうなの?」
「お礼にって、あの裏庭でネックレスを渡されて…それを見た婚約者に階段から突き落とされるのよ」
「え…それは…」
これって死んじゃうルートなの?!
「ネックレスって貰っちゃいけないのでは…」
「でも貰わないと攻略出来ないのよ」
「だけど階段から落とされるんでしょ?!」
「落とされない選択をすればいいの」
「選択って、今までそんなの出来たの?」
「…ないわね。というかもう色々とゲームと展開が違うもの」
これまでゲームと同じようなイベントは起きているけれど、攻略する気のないレベッカはゲームにあったような選択肢は選んでいないという。
それなのに勝手にリアムとのイベントは進み、好感度も上がっているらしいと。
ここにいるのは確かにあのゲームに出てきた登場人物達で。
なのにゲームとは違う事になっていて…そもそも私はゲームに登場しないはずだし。
一体、どうなっているんだろう。
「待たせたね」
声に振り返ると、殿下とリアムが立っていた。
「本日はお招きありがとうございます」
私とレベッカは立ち上がると礼をした。
「ですが…数切れのサンドウィッチのお礼にしては大袈裟すぎると思うのですが」
「なに、学園で何か渡したりなどしてそれを見られたら色々と面倒だからね」
それは…あの嫉妬深いという婚約者の事だろうか。
「ここは私的な空間だ、気負わず楽にしてくれていいから」
「…はい」
そう言われてもレベッカには難しいだろうけれど。
ともかく四人でお茶会が始まった。
会話をするのは私と殿下ばかりで、リアムは黙ったまま時々殿下に相槌を打つくらい。
レベッカもやはり緊張しているのだろう、いつもより口数が少ない。
「———ところで」
ティーポットが空になった所で殿下が言った。
「私はアレクシアに話があるんだ。リアム、ステファーニ嬢に庭を案内してくれないか」
「え…」
レベッカは目を丸くした。
「畏まりました」
立ち上がると、リアムは無表情のままレベッカへ手を差し出した。
「え、あの…」
「リアム、そんなエスコートの仕方があるか。笑顔だ笑顔」
「…そう言われても」
「ステファーニ嬢。すまないな、リアムはこれが精一杯なんだ。手を取ってやってくれないか」
「は、はい…」
殿下に頼まれてしまっては嫌ともいえず、おずおずとレベッカはリアムが差し出した手に自分の手を乗せた。
「リアムはね」
二人が庭園の奥へと歩いて行くのを見ながら殿下は口を開いた。
「ステファーニ嬢が気になっているようなんだ」
「リアム様が?」
「彼は…母親の事で色々あって、女性には見向きもしなかったんだけど。ようやくああやって好意を持てる相手が出来て安心したよ」
「…もしかして今日ここにお招き頂いたのは」
二人を会わせるため?
「リアムには素直に振る舞うよう言ったけれど。大丈夫かな」
楽しそうな口調でそう言う殿下の眼差しは優しくて、彼の事を本当に気にかけているのだろうという事が伝わってきた。