09
「まあアレクシア!ずいぶんと痩せてしまったのではなくて?」
王妃様はそう言って私の顔を手で包み込んだ。
父の妹だけあって、顔は似ている。
とても上品そうで綺麗な人だ。
———国王陛下は王妃様に一目惚れして猛アタックの末娶ったそうだ。
「可哀想に…辛かったでしょう」
「いえ…大丈夫です」
「本当に記憶がなくなってしまったの?」
「はい…」
「先生、記憶は戻らないのかしら」
王妃様は控えていた初老の男性に声を掛けた。
「そうですな、まずは調べてみましょう」
そう言って、男性は私に椅子に座るよう指示した。
私を診てくれるのは王族専属の医師で、研究家としても名高い方なのだそうだ。
調べると言っても前世のように、脳波を測ったりする器具がある訳ではなく。
私とテオドーロから話を聞くのが中心だ。
目覚めてからの身体の事や、分かる事分からない事などを聞かれた。
テオドーロが話したのは、私が熱を出す前日の事や、記憶をなくす前と後との変化などだ。
「ふーむ…」
私達の話を聞いた後、医師は唸った。
「会話はまともにできるのに自身に関わる事だけ記憶をなくすとは…。高熱も原因かもしれないが、もしかしたら余程ショックな事があったのかも知れませんな」
「ショックな事…」
「記憶をなくしたいほどの事です。心当たりは?」
医師はテオドーロを見た。
「———いえ」
考えながらテオドーロは首を振った。
「誰かが訪ねてきたり、手紙が届いたりなどは」
「学園が休みになってから熱を出すまでの三日間ほどは、姉への訪問者はないと思います。手紙は侍女に確認しないと分かりませんが」
「では確認してみて下さい」
「はい」
「ああ、休みに入った直後ならば、学園で何か起きた可能性もありますな」
「学園でか…」
今度は殿下が考え込んだ。
「———特に何もなかったように思うが」
「では何か記憶をなくす前に少しでも異変がなかったか、分かりましたらお知らせ下さい」
医師は言った。
「先生…もしも記憶をなくしたいほどショックな事が原因だとしたら…無理に思い出さない方がいいのかしら」
王妃様が尋ねた。
「そうですね…そういう可能性もありますな」
私が…自分で記憶をなくしたいと思うほどの事?
そんな事があったのだろうか。
「姉上」
思わず強く握りしめた手にテオドーロの手が重なる。
「大丈夫?」
「…ええ」
不安になっても…記憶を思い出す兆候がない以上、仕方ないのだけれど。
「ともかく、何か心当たりであったり体調の変化があればすぐにお知らせ下さい」
そう答えて医師は私達を見渡した。
結局家に帰って侍女達に尋ねても、原因となりそうなものは何も見つからなかった。
第二章 おわり
ちなみに各学年の主席は
三年:パトリック、二年:リアム、一年:レベッカ
レオポルド殿下は文武両道、リアムは頭はいいけど運動は苦手。
パトリックは何でも卒なくこなすタイプです。