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赤茶色の練り物を温めたものをミーアの髪の根元から丁寧に塗りつけ、湯につけて絞った布でぐるぐると巻く。
「冷めるまでこのまんまにしておくんだよ」
重いけどホカホカあったかく、チクチク痛むこともない。
ミーアの眼は、また色糸に引き付けられる。
「あれも、ばーちゃんが染めたの?」
頷く老婆。
髪の毛も、糸も染められるなんて。
なんてすごい人なんだろう。
「糸が好きかい?こんなにちっこいのに、もう「織り手」の卵なんだね。
この歳でターロ織を習っているのか。
その紐は、自分で織ったのだね、綺麗に魔力が通っている」
ふん・・・と、老婆は考え込んだ。
「これを見せてやろうかね」
と、棚の奥から取り出したのは、細長い木の箱。
香木なのか、机に置いた途端に、良い匂いが漂う。
ゆっくりと蓋を開き、薄い布をとる。
入っていたのは、ひと綛の糸。
うわぁ・・・
光沢を持った、絹の糸。
色は、澄み切った夏空の青。
こんなきれいな色が世の中にはあるのか。
ミーアは羨望のためいきをつく。
「何を思うね?」
・・・きれい・・・
ただ、きれい・・・
とっても、きれい・・・
そして、あれ?
「魔力?・・・」
紡いでいない生糸の束なのに。
「はじめから・・・魔力をもってる?」
糸を紡ぐときは、魔力を込めない。
ターロを織る時、魔力を織り込む。
叔母からは、そう習ったのに。
この糸は、はじめから魔力を持って。
きらきら、きらきら。
きらきら・・・
ふわっと布がかぶせられて、ミーアははっと我に帰った。
「何だろね、この子は!
まったく、とんでもない卵じゃないか!」