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「うわーおー」
山の中腹に、崖に差し掛ける形で建った小屋に招かれて、ミーアは口を真ん丸に開けて立ちすくんだ。
壁にずらりと並んだ壺。使い込まれた作業台と数々の道具。梁から吊るされたいろんな植物。
そして。
色鮮やかな、糸の束。
きちんと仕分けして並べられた、毛糸、麻糸、絹の糸。
・・・すごい・・・虹の色が、全部あるわ・・・
生成りと茶の濃淡の毛糸しか手にしたことのないミーアにとって、それは夢のような光景。
鮮やかな色たちに魅せられたまま、ミーアは言われるままに外の水場で髪を洗われ、ごしごし拭かれ、炉端で髪を梳かれている。
地肌に油を揉みこむ、しっかりとした指先。
「ひどく痛んでいるねぇ、羊毛の染料は髪染めには向かないのだよ。
ダナ豆のペーストにムスカとジャジン油。紅根を多めに入れてみるか。
少し赤味がかるが、薬効成分が毛根まで届く。
何度も染めずに、済むようになるよ」
知らない言葉が、山ほど出てきた。
最後の言葉は、えーと・・・
「もーこん?」
「髪の根っ子さね。ほれ」
ぷちん。
「そこの根元のちょっと膨れた処。髪の毛を作る大事な処だ。
根っ子が無けりゃ、草は枯れるだろ。
そこを薬で染めてやるのさ」
「黒くは・・・出来ないの?」
「黒く染めるのは難しいんだよ、
髪でも、糸でも、良い色を出すのは難しい」
話しながら老婆は甕から灰色のペーストを掬いだし、粉やら、油やら混ぜていく。
黒っぽい粉を混ぜると、練り物はあっという間に赤茶に染まった。
「わあー」
まるで、魔法みたいだ。
ミーアは眼を見張る。