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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
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1-7

7


「あれがそうですか」

「ミアリスと言うそうだ」

「なかなか気が強い」


 従者の言葉に、鷹を腕に止まらせた大兄(おおえ)と呼ばれた若者は、ちょっと口元を上げた。

 狼の子のように歯を剥きだして見上げた、紫の瞳。

 うむ。根性がありそうだ。


「地の髪は、銀だ」

「それは!目立ちますね」

「目立つな」


 黒髪の一族の中に、ただ一人敵国の色を持つ子。

 娘たちを攫われた砂漠の民と、王子を殺された王国はその後も何度か衝突し、互いに多くの死傷者を出している。あの悪ガキの一団も、父や兄を失くした者がいるのだろう。

 この私と、同じように。


 ふう、と大兄(おおえ)はため息をつく。


「今後も苦労しそうだな」




「髪そめるの、や」

 口をとがらせてミーアは文句を言う。

「チクチクいって、かゆいのよ」


 口を引き結んで、叔母は梳る手を止めない。

「ひどい目に合うのは、お前なのよ」

 羊毛を染める茶の染料は、匂いがきつくて地肌を痛める。

「銀色の髪を見せては、だめ」



 

 かゆい、ちくちく、いらいらする。


 ミーアは家畜の水飲み場でばしやばしゃと頭に水をかけた。

 こんな髪、大嫌い。

 染めても染めても、しばらくすると下から出て来る銀色。

 数日ごとに、神経質に染め直す叔母。

 もう、やだ。こんな髪。


「おやおや、そんな泥水を頭にかけるものではないよ」

 上から聞こえた細い声に、ミーアはぎょっとして振り返る。

 夕方、岩羊たちが放牧地から帰るまで、こんなはずれの溜め池には、近づく者はいないのに。


 溜め池の向こう、山に続く岩場の上から、籠を背負った人が下りてきた。

 小柄な叔母よりもっと小さい、痩せた年寄り。

 しわだらけの顔にうかぶやわらかな笑みに、ちょっと警戒心を解く。


「ちゃんと洗って乾かして、油を塗らないと、風邪をひく」


 ぽたぽた雫のたれる頭に手をのばされて、子供はさっと身を引いた。

 年寄りの笑顔は揺るがない。


「ミアリスだろう?事情は知っておるよ。

 何で染めたね?ワッシャの根かね?」

 叔母が使った染料を一目で言い当てる。

「乱暴なことをする。あの液は濃いと肌を荒らすのだよ。

 ついといで。ロマリアの精油を塗ってあげよう」


 部族の大人に命令されたら、逆らわず、従え。

 常々叔母に言われていた事。


 ミーアは、年寄りの腰の古びた帯が、もの凄く複雑なターロ織りなのに気付いた。

 織りの複雑さは、身分の差。

 部族の大人の、えらい人だ。


 ためらうミーアに、年よりはけらけら笑う。


「遠慮するでない。

 儂は染め物と薬草にちっと詳しいだけの、ただの婆じゃよ。

 ばあちゃんとお呼び。さあ、おいで」


「・・・はい、ばーちゃん」


 部落に入っていくかと思ったら、婆さんは振り向いてまた山の方へ歩いて行く。


 ミーアは、後を追った。


 

 

 


 

 


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