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「やーい、泥頭!」
「どろあたまー!」
道の横のちょっと高い処で、待ち伏せていたのは、数人の子供。
族長の天幕の、戦士階級の子等だ。
六、七歳の大柄な男の子が、先頭に立って泥をぶつけてきたんだ。
おまえらぁ・・・
私にぶつけるために、わざわざ水を汲んで、泥んこ作ってまってたわけか?
泣くと思った?逃げると思った?
おあいにく様。
ミーアは落ちてた棒きれを拾って、子供たちの方へずんずん進んでいった。
五歳の足のずんずんだけど・・・
道のふちに着いたけど、ちょっと高い処は子供の背では結構な崖。
「おりてこい、ひきょーもの!」
棒を振りまわし、さけぶけど、悪ガキどもはあかんべをして泥を投げて来る。
「泥頭、きたねぇぞー」
「あっちいけー」
「ひきょーだぞーしよーぶしろー!」
その顔にべしやっと泥が当たって、ミーアはどさんと尻餅をつく。
あ、いけね。やりすぎたか、とひるむガキどもの頭の上を。
ピー一ィッと鋭い声を上げて、鳥が通り過ぎた。
上昇し、綺麗に弧を描いて戻ると、差し上げた右手に止まる。
茶色い羽根の、若い鷹。
よし、と鷹をなだめたのは、良い身なりをし、従者を連れた若者。
少年から青年に移る寸前の、のびやかな四肢。
肩まで伸びる黒髪を一つにまとめ、真っすぐなまなざしで子供たちを見つめる。
「大兄!」
ガキ大将がぱっと顔を輝かせた。
「新しい鷹の訓練ですか!見に行っていいですか!」
「見苦しい。着替えてこい」
従者が眉をひそめて言った。
はっと気が付いた悪ガキたちの服は、けっこう泥はねだらけ。
顔を赤らめて立ち去ろうとしたガキ達に、下からミーアが叫ぶ。
「にげるなーこらー!」
泥だらけになりながら立ち上がり、棒を振り回した。
合わせるようにタイミングよく、ガキ大将がつまづき、転んだ。
自分たちが作った泥んこの上に。
ふん、ざまーみろー。
若者はちょっと眼を見開き、下のミーアを見おろす。
泥まみれの髪の下から、紫の瞳をぎらぎらさせ、狼の子のように唸っている五歳の子を。
そして、悪ガキたちに眼をやる。
「最弱の者に数人がかりか」
冷たい声で言うと、背を向けた。
あーあ。
訓練は見せてもらえそうもないなー。
「あのちび、なんで泣かないんだ」
「向かって来やがんの。弱いくせに」
「なんか腹立つなー」
肩を落として戻る悪童たちは、口々につぶやくのだった。




