3-16
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翌日。
蜂蜜を煮詰めているミーアの上に、ふっと影がさす。
「あら、キーヤ、久しぶり」
「ああ」
最近はめっきり顔を見なくなったキーヤだった。
「ちょっと離れててね、熱いのがはねると危ないわ」
「あ、ああ・・・」
もうちょっとで煮詰まる蜜は、重く、熱い。
熱いうちに薬草を混ぜ、固まる前に平たく流して、切り分ける。
煮詰め足りないと固まらず、煮詰めすぎると結晶化してしまう。
タイミングと時間が勝負の、飴作りだ。
鍋から顔を上げて見上げたキーヤは、刺繍を入れた帯に剣を下げた、戦士のいでたち。
まだ成人の刺青はないけれど、一人前のトゥリアークの男子の正装姿だ。
「その・・・ばば様に挨拶に来た。
大兄の付き人として、一緒に戦に行くんだ」
一緒に・・・淡い嫉妬が胸を刺す。
そうか、キーヤ、これが初陣になるんだ。
「そうか・・・気を付けて・・・アッ、大変!」
あわてて鍋をおろし、平皿に流し込む。
平らにならす木杓子を持つ手が、震える。
「そうなんだ・・・
ばば様は薬草畑のほうにいるよ。
ごめん、これ、すぐ切り分けないと。
行ってらっしゃい。気を付けて」
「あ・・・ああ・・・うん・・・」
何か言おうとするが、言葉に詰まり、そのまま畑のほうに向かった。
「気張って無理をするでないぞ。長の命をよく聞いてな」
そして、ばば様は、にやりと一言付け加える。
「あれだけいじめてきたつけがまわってきたのう」
ぼっ、と耳を赤くしたキーヤは、仕事を止めずに手を振って別れを告げるミーヤに、うなずいて、速足で山を下って行った。
やれやれ。
戦いに赴く前に、ミーアの織った帯が欲しかったのじゃろに。
不器用な奴よなぁ。




