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糸をくぐらせ、板を回す。
糸をくぐらせ、板を回す。
五歳の子供の小さな指は、思ったように動かせず、力も足りないのが口惜しい。
くぐらせ、回す。くぐらせ、回す。
そして一緒に組み込むのは、自分の魔力。
細く細く、指先から紡ぎ出し、糸に添える。
太くなったり、細くなったり、こぶが出来たりしたら、だめなの。
細くなあれ。丈夫になあれ。なめらかになあれ。
しゅっ、とん、くるり。
しゅっ、とん、くるり。
「まあ、ミーア!」
驚く叔母の声。
「初めてなのに、とっても上手。いえ、それよりも・・・」
ためらいがちに、叔母は子供の頭をなでる。
「どうやって、『力』を織り込むことを知ったの?」
子供はこてん、と首を傾げる。
「おばちゃんと、おんなじにしたよ」
ちっちゃなころからずっと見ていた、叔母の手わざと同じように、おんなじことをしただけ、と。
それではこの子は、誰にも教えられずに、魔力を見ることが出来、操ることが出来たということ。
魔力を感じても可視出来る者は少なく、織りに組み込むには長い修練がいるというのに。
まるで・・・まるで亡くなった姉を見ているよう。
巫女になれるほどの『力』を持ちながら、族長に望まれて嫁いでいった、美しかった不幸な姉。
若い叔母は、こどもをぎゅっと抱きしめる。
「いっぱい練習しましょうね。
知ってることは全部教えてあげる。
これは神様から授かった、一族に伝わる大事な『力』なの」
魔力を込めて組まれるターロ織の腕は、そのまま女たちの価値に繋がる。
ターロ織の才が認められれば、『織り手』の巫女さまたちの下で修業し、魔力の高い複雑な織り方、組み方を伝授される。
族長の矢除けの胸当ても、戦士長の破邪の鞭も皆、名高い織り手がつくったものだ。
織り手として身を立てられる腕があれば。
そうなれば、この子も・・・
こんな髪でも、こんな出自でも・・・
『運命の織り手』の大巫女様から、一族と認めてもらえるかもしれないわ・・・