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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
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1-3


 しゅっ、ととん、とん。しゅっ、ととん、とん。

 しゅっ、ととん、とん。しゅっ、ととん、とん。


 物心つく前から、そのリズムと低い歌声は、子供と共にあった。


 テントの支柱に取り付けられた。細い板。結ばれた何本もの糸がそろえられ、穴をあけた(ターロ)が通されている。横糸を通し、押さえ、(ターロ)をくるりと回す。横糸を通し、押さえ、くるりと回す。

 叔母の白い指先から、細く魔力の糸が流れ出し、一緒に織り込まれていく。

 座っている叔母の膝に溜まる組み紐が、次第に長くなっていく。

 魔力の絡む、長い組み紐。

 見入る幼子は手を伸ばす。


「ミーアもやりたい」

「五つになったらね」

「ミーアもやりたい」

「あと二年したらね」


 組む手を止めずに叔母はささやく。


 ターロ織りは、部族の女たちの仕事だ。

 各家ごとに先祖から伝わるターロの型と文様があり、嫁に出る女たちが伝えていく。

 古い家ほどたくさんの意匠を持っていて、鮮やかで複雑な組み紐が織れるのだ。


 寝物語に叔母の家もたくさんのターロを伝え、昔はいろんな紐を組み、(はた)を使って布を織っていたと話してくれるが、部落のはずれのあばら家にミーアと二人住まう今の叔母に許されているのは、雑用に使われる単純で安価な紐を作る事だけ。

 だが安定した強い魔力が込められた叔母の紐は評判が良く、質素な二人暮らしはなんとか回っていったのだった。


 五歳の誕生日、幼児から子供へと昇格した祝いに髪を三つ編みにするのを許され、真新しい組み紐を結んでもらったミーアは、念願のターロの板を手渡された。

 子供用の一番簡単な、小さな(ターロ)

 見よう見まねで縦糸を張り、ターロを通して横糸をくぐらす。


 くるり、と、ターロを回した途端。


 ミーアは突然、思い出した。


 ターロ織り?


 いや、これは、「カード織り」じゃないか。


 と。


 しゅっ、ととん、とん。

 しゅっ、ととん、とん。


 カードを回し、糸を通すたびに、見知らぬくせに懐かしい記憶がひらめき、消えていった。


 ・・・私、この織りでミサンガを作ったことがあった。

 ミサンガという耳慣れぬ単語。しかし、すぐに手首にむすぶ紐が脳裏に浮かんだ。

 織り込んだ模様まで鮮やかに。

 お揃いで、誰かに渡した腕輪。

「ありがとう。綺麗だね」

 答えた相手は、誰だったのか。

 

 カード織り。レース編み。マクラメ編み。ビーズ刺繍。

 ミシン。手芸部。文化祭。

 スマホ。バス。時刻表。目覚まし時計。


 織りの技法はそのまま幼い頭に残ったが、他の言葉は意味もなさずに、ただ霧散していったのだった。



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