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しゅっ、ととん、とん。しゅっ、ととん、とん。
しゅっ、ととん、とん。しゅっ、ととん、とん。
物心つく前から、そのリズムと低い歌声は、子供と共にあった。
テントの支柱に取り付けられた。細い板。結ばれた何本もの糸がそろえられ、穴をあけた板が通されている。横糸を通し、押さえ、板をくるりと回す。横糸を通し、押さえ、くるりと回す。
叔母の白い指先から、細く魔力の糸が流れ出し、一緒に織り込まれていく。
座っている叔母の膝に溜まる組み紐が、次第に長くなっていく。
魔力の絡む、長い組み紐。
見入る幼子は手を伸ばす。
「ミーアもやりたい」
「五つになったらね」
「ミーアもやりたい」
「あと二年したらね」
組む手を止めずに叔母はささやく。
ターロ織りは、部族の女たちの仕事だ。
各家ごとに先祖から伝わるターロの型と文様があり、嫁に出る女たちが伝えていく。
古い家ほどたくさんの意匠を持っていて、鮮やかで複雑な組み紐が織れるのだ。
寝物語に叔母の家もたくさんのターロを伝え、昔はいろんな紐を組み、機を使って布を織っていたと話してくれるが、部落のはずれのあばら家にミーアと二人住まう今の叔母に許されているのは、雑用に使われる単純で安価な紐を作る事だけ。
だが安定した強い魔力が込められた叔母の紐は評判が良く、質素な二人暮らしはなんとか回っていったのだった。
五歳の誕生日、幼児から子供へと昇格した祝いに髪を三つ編みにするのを許され、真新しい組み紐を結んでもらったミーアは、念願のターロの板を手渡された。
子供用の一番簡単な、小さな板
見よう見まねで縦糸を張り、ターロを通して横糸をくぐらす。
くるり、と、ターロを回した途端。
ミーアは突然、思い出した。
ターロ織り?
いや、これは、「カード織り」じゃないか。
と。
しゅっ、ととん、とん。
しゅっ、ととん、とん。
カードを回し、糸を通すたびに、見知らぬくせに懐かしい記憶がひらめき、消えていった。
・・・私、この織りでミサンガを作ったことがあった。
ミサンガという耳慣れぬ単語。しかし、すぐに手首にむすぶ紐が脳裏に浮かんだ。
織り込んだ模様まで鮮やかに。
お揃いで、誰かに渡した腕輪。
「ありがとう。綺麗だね」
答えた相手は、誰だったのか。
カード織り。レース編み。マクラメ編み。ビーズ刺繍。
ミシン。手芸部。文化祭。
スマホ。バス。時刻表。目覚まし時計。
織りの技法はそのまま幼い頭に残ったが、他の言葉は意味もなさずに、ただ霧散していったのだった。