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「やれ、やっかいなことよのう」
最後の弟子が逃げ出してから、弟子用の小屋は物置にしてしまっていた。
寝床やら、食料やら、練習台やら、あらためて用意するものがけっこうあるのだ。
「いろいろ持ってきてもらおうかの。
言い出したあちらの負担をふやしてやろう。
ま、今度も長続きはせんじゃろうて」
「そめしになるのは、たいへんなの?」
染めをやってみたくてうずうずしているミーアはばば様に尋ねる。
「織りと両方は、出来ないの?」
「ふむ。普通の染めならば、皆やっておろう。
ワッシャの根やカヤの穂などを煮出して羊の毛を染めてな。
じゃがあのやり方では、色が濁る。思った色が出るとも限らぬ。
澄んだ鮮やかな色を出すのは、経験と知識、手間と根気がいる」
ああ、ばば様の小屋に並んでいた、虹の色をした糸の数々。
「染め師の技も、織り手の技も、大層な修練が必要じゃ。
一度に両方を憶えるのは、まず無理じゃよ」
そうかぁ・・・
でも、綺麗な好きな色を自分で染めて、何か作った事があったような・・・
あれは夢だったのかなぁ・・・
そしてばば様は、ミーアがびっくりするような事を言った。
「染め師の技というのは、薬師の技に近いな。
作る過程で魔力が必要なところも、薬師の技と共通じゃ。
そうして染めた澄んだ色糸は、鮮やかなほど、良く魔力を通す」
その糸にさらに魔力を絡ませながら、ターロで織っていくのだ。
亡くなったお前の母御は、鮮やかな防御の魔術を織り込んだ、見事なターロ織りの帯の作り手であった。と。




