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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子


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 せんしのひととばば様は、木陰に敷いた絨毯に坐り込んで、話し合っている。


 お茶をいいつかったミーアは、緊張しきって、盆にのせた茶碗をかたかたいわせながら、近づいた。

 おとなのせんしのひとに、これほど近づいたのは初めてだ。



 せんしのひとは鷹揚にうなずいて差し出した盆から茶碗を取ると、一口飲んで、言った。



「では、このミアリスやオックはかまわぬと?」


 名を口にされ、ぱしゃん、と、残った茶碗の茶が零れる。


「こやつらは自然体であろう?

 武張った戦士どもや、野心ある巫女どもは、嫉妬心や闘争心を垂れ流す。

 それはそれで、生きるのに必要なものではあるが、磐座には近づけとうはない。

 そなたなら、理解出来るであろう?」


 

 茶碗を受け取ったばば様は、安心させるようにミーアに微笑んだ。


「こやつはな、ガキの頃大怪我をして、しばらくここで臥せっておったのよ。

 再起不能と思われて、継承権は失くすわ、婚約は解消されるわ。

 やっと復帰の目途がたてば、今度は婚約目当ての娘どもが、世話をやこうと群がってな。

 あの頃は、ひどい目におうたのう」

  


「おばば様、もう、その話は」

 と、止める戦士は、耳まで真っ赤になっている。゜


「じゃが、そのおかげでそなたは『弱者の目線』を知る者となった。

 戦士階級には貴重な経験じゃよ」

 


 そんな経験をばらされて、戦士は早々に立ち上がった。


 作法どおり絨毯のわきで控えていたミーアは、ぽん、と頭に手を置かれて、びっくりする。


「眼とそろいの髪の色だな。似合うぞ」


 そのまま遠ざかる戦士の背に、ばば様は声をかけた。


「族長に伝えよ。

 弟子は受けいれるが、巫女見習いの試験が近い者はいかん。

 織り手になる意志が定まっていない、若い者を選べ、と」


「十二歳以下、という事ですか」


「近隣の部族に声をかけるもよし。なんなら男子でも構わぬぞ。

『織り手』と違って、『染め師』に性別は関係ないからの。

 肝心なのは、染めの才があるかないか、それだけじゃ」





「あの方は、どなただったのですか?」


 夕餉の支度を手伝いながら、ミーアは訊ねた。


「ん?

 あれは族長の四男坊じゃ。

 せんだっての戦で上の三人が死におったから、あの若さで時期族長候補の第一席になった男よ」



 そう、ミーアの母が攫われた、あの略奪さえなければ。

 ミーアの腹違いの兄となったはずの、若者だった。

 


 

 

 

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