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「磐座のおばば様はおられるか?」
声に振り向いたミーアは。ぴしっと固まってしまった。
ぶぞくのおとなのせんしのひとだ。
お供もつれず、たった一人で大きな荷物を背負っているけれど、見事なターロ織りの帯と飾り紐。腰の長剣。目元に刺した綺麗な青い刺青。
黒髪を独特の編み込みでまとめた、浅黒く精悍な、トゥリアーク一族の若い戦士がそこにいた。
そして。
「おや、あの悪ガキではないか。久しぶりだのう」
それにため口をきく、凄いばば様。
あれ?
この人も、ばば様をばば様って呼ぶのね。
「今朝狩った羚羊の肩肉です」
「おお、それはごちそうじゃ」
「そして」
若者は、言いよどんだ。
「父が、老師に弟子を受け入れていただきたい、と申しております」
正式な申し入れがある前に、お知らせに来ました。と。
老婆は嫌そうに顔を顰めた。
「仕込めそうなおなごは、おらんわい。
皆、染め師などと言う地味な技を極めるよりも、織り手となって地位を得て、派手に暮らしたいのじゃ。
何人来ても、無駄じゃったわい。また逃げ帰るのがおちぞ」
「俺の姉も泣いて帰ってきましたね」
「ふん、あの娘、オックを馬鹿にしていじめおったのじゃ」
苦笑いする若者に、老婆はほーっとため息をついた。
「人気が増えれば、諍いを生む。
諍いが増えれば、主様が荒ぶられる。
それでなくてもここ数年の争いと人死にで、お山の空気は落ち着かぬのじゃ。
技を競い合い、他を蹴落としてでも巫女を目指す、おなごたちには向かぬ暮らしよ」




