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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子


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「おはようございます、ばば様」


 あてがわれた小屋の、干し草を詰めた寝床から出て、入り口で髪を梳かしていると、一番大きな小屋から出て来たばば様がミーアの挨拶にうなずいて言った。


「ふむ、そろそろその髪を染めるかの」


 そういえば、ここへ来て、もう半月も過ぎたのだった。

 自分では見えないけれど、根元近くはだいぶ地の色が出て来ているだろう。


「染め小屋へ、行きますか?」


「いいや、この陽気じゃ。外で良いわ」

「中で、お手伝い、します!」


 なんとか染め小屋に入りたいミーアが食い下がる。


「ふふ。では材料を憶えてもらおうか」

 しかし、ミーアが入れてもらえたのは、入口近くの小さな区画。

 奥から持ち出した壺や袋をばば様は机に並べていく。


「ダナ豆のペースト。食えぬ豆じゃが、剥いてすりつぶすと、何とでもよくなじむ。

 ムスカとジャジン油。これは髪の保護のためじゃ。

 色はこの紅根と、・・・ふむ。紺か紫を足したいのう。

 ランダかヘチの実・・・あれは発色はよいが、人間の髪に使ったことは無かった・・・ふうむ・・・」


 と、ぶつぶつ言いながら考え込んでいたが。


「ま、試してみるか」


 と、あと何種類が持ち出して来て、混ぜたり、こねたり。


 前と同じように髪に擦りこみ、蒸しタオルで包んで待つことしばし。

 きれいに洗い流してみると。


「・・・ありゃ・・・紫じゃの・・・」

 

 ヤマゴボウの実を絞ったような、綺麗な紫の髪になってしまった。


「ランダの色だけ染み込んでしまったわ・・・

 人の髪とこんなに相性が良いのか、あれは・・・」


「白髪染め作りは、むずかしいのう」

 まだまだ売り物にはなりそうもない。

 染め物仕事は奥が深い、まだまだ研究不足じゃ。と、がっかりするばば様。


「・・・銀よりは・・・いいです・・・」

 黒は難しいって言われてたし・・・実験台とも言われてたし・・・


 いいもん、ここならオックに見られるだけだし、叔母ちゃんちにはしっかりフードをかぶって行けば。



 半月くらいなら、このまま我慢します、ばば様。

 染め直そうかの、と言うばば様に、材料代を考えたミーアは気丈に答えたのだったが。




 しかし、そんな時に限って。

 ばば様の所に、来客があったりするのだった。


 

 



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