1-2
2
そう、何から語り始めようかの。
かつて強大であった王国は数百年の栄華ののち、次第に陰りを見せ始めた。
偉大な魔導師を数多く輩出した王家の血が、腐り始めたのじゃ。
魔力を重視するあまり、近親交配を続けすぎたためと言われる。
爵位を継ぐのは長子ではなく、最も魔力量の多い者。
しかしその数は減り続け、貴族の中にも、平民のような魔力無しまで生まれてくる。
殊に魔力量を求められる国王、四候、神官長、大聖女。
大聖女にいたっては、もう数世代に渡って出現することがなかった。
純血を重んじてきた王国人は、思い余って、魔力の多い異民族に目をつけた。
辺境のまつろわぬ小国群。
「大いなる牙」を崇める森の民。「海流の支配者」を崇める海の民。「運命の織り手」を崇める砂漠の民。
異教徒と蔑み、奴隷扱いしてきた彼らの血で、魔力を活性化させようとしたのじゃ。
そんな野望を持った王子の一人が、若い貴族と徒党を組んで砂漠の民の天幕を襲い、魔力ある子を孕ませようと、若い娘を数人攫った。
不運だったのは、その天幕に、里帰りしていた部族長の十三番目の妻がおった事じゃった。
岩と砂漠の小国、トゥリアーク。
黒髪に黒い目の人々は、都市を作らず部族ごとに別れて暮らし、女は機を織り、男は砂漠を渡って商いをする。
砂漠の魔物は強力ゆえ、男たちは皆勇猛な戦士であった。
妻を奪われては長の沽券にかかわる。
砂漠の戦士たちは果敢に略奪者たちを追いつめ、血祭りにあげ、凌辱された娘たちを取り返した。
しかし戻った妻が月満ちて生んだのは、王国人の銀の髪に紫の眼を持つ赤子であった。
悲憤のあまり、妻はその場で自害。
赤子は共に攫われ戻った、妻の妹の手に託された。
・・・生まれた赤子に罪はない。
せめて黒髪に生まれていれば、出自は疑念だけで済み、やがて噂も消えようものを、金銀の髪の色は王国人の、それも高位の貴族の印。
黒髪の一族にただ一人の銀髪は、あまりにも異質なものであったよ。