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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
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「オック―!お昼だよー!」


「ック」


 薪を担いで戻ってきたオックに声をかけると、大きな男の子はうれしそうににぱっと笑う。


 身体だけはすごく大きな、幼い男の子なのだ。オックは。

 しばらく暮らすうちに、ミーアは弟を持ったような不思議な気持ちになる。


「いいお天気だからここで食べよう。

 今日の薄焼きは、私が焼いたの!」


「ック?」


「うん、うまく焼けた・・・と思うよ」

 乳酪(バター)を塗ってくるくる巻いた薄焼きと干し棗を籠から取り出しながら、ミーアは焦げたほうをこっそり自分用にと取り分ける。



 ばば様は、食べるものにもけっこううるさい。

 部族の共同窯で焼く大きなパンよりも、粉を溶いて鉄鍋の底に拡げて焼く薄やきがお好きなのは、実は歯が悪いからだろう、とミーアは思っているが。


 乳酪と蜂蜜をたっぷり塗ってくるりと巻いた薄焼きを初めて食べさせてもらったミーアは、美味しさに頬をおさえて上を向いてしまった。


 

「畑の北に蜜蜂の巣箱が置いてある。刺されるからうかつに近づいてはいかんぞ」


 あ、あの太い木の幹が三つ並んでるのが、巣箱なのか。


 蜂との付き合いかたも、そのうち教えてやる。とばば様は言う。

 蜂蜜も、蜜蝋も、薬の材料になる貴重な品。

 交易で高値で取引されるそれらを豊富に使えるのは、蜜蜂の友である者の特権だ。と。


 

 


「オック」


 ごちそうさま、とうなずいたオックは、一口残した薄焼きを手の中で細かくちぎる。


「あ、呼ぶんだね」


 こくん、とうなずき、息を吸って、すぼめたオックの唇から。

 高く澄んだ、複雑な囀りが溢れ出す。


♪♪♪


 答えて啼き交わした小鳥たちが、大きな肩に、頭に舞い降り、オックの手からかけらをついばむ。


 ミーアはうっとりと聞き入った。


 部族に受け入れられなかったオックは、言葉は紡ぐ事は出来ぬが、素晴らしい口笛の名手であったのだ。

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