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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
16/43

2 磐座の下で

2-1



 そうして、染め師の家での暮らしが始まった。


 齢は十代後半だろうか、浅黒く引き締まった部族の男たちとは違い、色が薄くて大きくて柔らかい感じがするオックは、頭の回転はすこしゆっくりしているけれど、水を汲んだり重い甕を運んだり、ぽってりとした大きな手で、力仕事は何でもこなす。


 ミーアの仕事は、その大きな手では取りこぼしてしまう、細々とした雑用だった。


 食事と畑の世話を習い、ばば様の植物の採取に付いて歩く。




「この茂みの葉はな、先っぽの新芽二枚だけを摘む。

 陽にあたらない、日陰のところだけな」


「これで、染めるの?」


「いやいや、これは茶にするのじゃ」

 

 そうか、よく見れば、叔母が淹れてくれるマナ茶の樹だ。


 ぷうー。これも染め物じゃないのか。

 ふくれたミーアに、老婆は嗤う。


「たかが茶とあなどるでないぞ。日向と日陰では味が違う。育ち過ぎたものは渋みが出る。

 そなたは草摘みに呼んだのじゃから、まず摘み方を憶えるのじゃ。

 染め師の弟子にはまだまだ早い。ヒヨコにもならぬ卵じゃよ」


 だから染め物小屋には、まだ入れられぬ、と言われ、もう一度ふくれる、ミーアだった。

 あのいろんな色の糸を、見たい。触れたい。

 染めて、織って、好きなものを作れたら。


 そして、いつか。

 いつか、あの青空の色をした、綺麗な糸を織れたら、と。



 食後のお茶は、叔母が淹れるのと同じ葉なのに、渋みがなくてほんのり甘くおいしかった。

「儂の好みの味がこれじゃ。その舌でしっかり覚えておくれ」




 そして空いた時間は、ターロを織る。

 子供用のたった一つのターロ板だけれど、これは大事なミーアの財産なのだ。


「♪固く結ぼれ、背の荷を守れ。

  固く結ぼれ、(いも)()を守れ♫」


 叔母に教わった織り歌を歌い、その指先に魔力を込めながら。




 そして、数日に一度は。


「ただいま、叔母ちゃん!」

 許された、叔母の家への里帰り。


 ミーアは叔母が用意した、一本の横棒に数本の紐を結んだ道具に首を傾げた。

「叔母ちゃん、これはなーに?」

「今日は胸飾りの編み方を教えてあげるわ」


 姪と共に暮らす時間は少なくなった。

 巫女たちの承認がなければ一族のターロ板は渡せないが、伝えたい技は数多い。

 ひと綛の糸と、両手さえあれば。

 一族の女は何だって、作り出すことが出来るのだから。


 教え始めると、ミーアはぱっと顔を輝かせる。

「マクラメ編みだ!」

「え?」

「あのね、これマクメラ・・・メクマラ・・・?・・・あれ・・・?」


 閃いてすり抜けていった記憶に、子供はちょっと顔をしかめるが。


「ううん、何でもない」


 編み込む叔母の手業に見惚れて、考えるのは放棄したのだった。

 


 






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