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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
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 山道が億劫になったどころか、歳はとっても歩き慣れた老婆は、軽々と岩だらけの斜面を登っていく。

 道のわずかな段差も、荷物を負った五歳の子供の背丈にはきつい。

 手をかけてよじよじと這い上がる。

 追いつこうと焦ってけっこう汗をかいてしまう。


 

「お前の仕事は、オックの助手じゃ」


 登りながら息も切らさず老婆は言った。


「あれは力はあるが、細かな作業が苦手。

 掃除をさせれば箒を折る。洗濯させれぱ布に穴があく。

 料理なんぞはもってのほかじゃ」


 何を思い出したか、くすくす笑う。


「お前の役目は畑の草取り、豆の皮むき。

 花殻摘みに、茶の支度。

 そのちっこい手でやってもらうことはたんとあるぞい。

 追い追い覚えていってもらうぞ」


「はい、ばば様」


 絶対にばーちゃんなどと呼んではいけないと、叔母にきつく諭されたミーアは神妙にうなずく。


 


 「ほれ」


 と、老婆は小高く開けた処で足を止め。


「一休みするかいの。お山が綺麗じゃ」


 はあはあしながら見上げると、見慣れたスレイマンのお山が手前の双子の峰の間から輝く白い頂をのぞかせる。



 そこから道は二つに分かれ、下りを選んでちょっと歩くと、老婆の小屋の建っている、木々に囲まれた盆地に出る。

 前に来た時には気付かなかった、細かな所に眼がいった。

 村より緑が豊かなのは、岩壁に風を遮られるためか、中央の小さな池の水脈のせいか。


 岩壁に沿ったいくつかの小屋。小屋の後ろの小さな畑。莚を拡げて干してある草やらなにやら。



「オーック、と、そうじゃ、粘土を採りに行かせたのじゃったわ。

 後で引き合わせよう、まずは」

 

 と、手前の小屋に荷物を置かせ、甕に汲んであった水で手と顔を洗わせると、老婆は目の粗い櫛を取り出してミーアのおさげを結い直し、ぽんぽんと服の埃をはたいて。


「さあ、まずはご挨拶に行くぞ」と言う。

 

 


 お山を見て一息ついたところまで道を戻り、もっと先へと登っていく。


 見上げた先には、枝を拡げた大きな木と、一塊の大きな岩が。

 樹齢はいかほどになるのだろうか、谷から吹き上げる風にさらされたごつごつした幹は捻じ曲がり、岩を覆うように太い枝を伸ばしている。


 近づいてみると岩はとても大きく、上部は平たくなっていて、上で大人が十人くらい踊れそうだ。




「スレイマンのお山に向き合う、トゥリアーク一族の『織り手の磐座(いわくら)』じゃ」




 岩の正面には亀裂が入り、大人が潜れるほどの穴が開いている。

 穴の両側には柱が建てられ、見事なターロ織りの帯が張り回されていた。

 貴石を縫い取り、長い房を下げた立派な物。



注連縄(しめなわ)みたい・・・)


 頭をよぎった不思議な言葉。


 大事な、神聖な場所を表すもの。




「『運命の織り手』さまの巫女となった者は、三日三晩この磐座に籠って、(ぬし)さまと対話するのだよ」




 ミーアは、はっと気が付いた。


 ここは、一族の聖地だ。


 この磐座近くに住む『そめしのばーちゃん』って、とってもとってもえらいひと?




「おまえは今日からここに住まうのだ。

 (ぬし)さまにご挨拶しておおき」



 老婆に促され、ごくん、とつばを飲み込んだミーアは磐座の前に額ずく。



(ミアリスと申します。これから染め師のばば様のもとで暮らすことになりました。

 半分しかトゥリアークの民じゃないけど、どうか見守っていてくださいませ」






 ぶぉん、と亀裂から吹き上げた風が、ミーアのおさげを揺らした。


 


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