1-12
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ダダンが帰った後、叔母は考え込んでしまって、ミーアの染めた髪に気付かぬほど。
だがその夜、「そめしのばーちゃん」のお手伝いをすると言ったミーアの言葉に首をかしげた叔母は、翌朝早くにたずねて来た老婆の姿を見て、飛び上がったのだった。
「月の座の老師様!」
「磐座の婆で良いわい」
あわてて炉の上座をすすめる叔母に断りの手をふると、その場に佇んだままで言う。
「今日からミアリスをよこしなされ」
「ミアリスを、そちらに!?
え?今日からですか?」
あまりにも突然の話だった。
まだ五歳の子では、下働きにもならないだろうに。
「草摘みの手が欲しいのさ」
腰が抜けそうな叔母に向かって、老婆はニッと嗤う。
「ま、オックの助手じゃと思いな」
呼ばれたミーアは驚いた。
「え、ばーちゃんちに行くの?
半月先じゃなくて、今?」
これっ、そんな口のききかたをして!と、真っ青になる叔母に鷹揚に手を振り、老婆は言った。
「話が変わったのさ、さあ、荷物をまとめて支度しな」
支度と言っても持ち物はわずかな着替えと、そして。
大事なターロ板をミーアは握りしめる。
これを持ってっていいんだろうか。
「大切にしているようじゃの。よしよし。
ターロ板はおなごの大事な財産じゃ。
たまにはここに戻してやるから、叔母御の技を習うがいいよ」
「!」
叔母は息を呑んだ。
技術を習う、というのは、その家のターロを継ぐ資格を持つということ。
では、ミアリスを一族と認めてくださるのか。
月の座の老師様のお口添えがあれば、十二歳になったあかつきには、巫女見習いの織り手の試験も受けさせてもらえるだろう。
ああ、大姉さま、あなたの娘が技を継げます。
「ま、当分は雑用係の使いっぱしりじゃ。
そろそろ山道が億劫になってきたからの」
叔母との別れもそこそこに、小さなミアリスは老婆と山へ向かって行った。
あの小さなミアリスの、どこを見込んでくださったのか、と取り残されて半ば呆然としていた叔母だったが、その日の午後、権威付けに族長の弟を連れた叔父がやって来て、ミアリスを岩羊飼いの養女に差し出せと言った時、ああ、あの方は千里眼かと、心の中で手を合わせ、にっこり笑って言ったのだった。
「ミアリスは磐座の老師に召し上げられました」と。