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髪を三つ編みにする時間も惜しんで、ミーアは家に駆け戻った。
だが、あばら家が見えたところで、ぴたりと止まる。
入り口の傍に繋がれている、一頭の馬。
叔母に、客が来ている。
あれは、叔母の叔父にあたる、『立ち上がる熊』の炉辺のダダンの馬。
あの人が来ると、叔母はいつもミーアを外に使いに出す。
だから、あの人が何をしに来るか、ミーアは知らない。
だけど、お客が帰った後の叔母は、いつも悲しい顔をしている。
でも、ミーアは今日は初めから外にいる。
叔母に何も、命令されてはいないのだから。
牧に出てからっぽの、トトの囲いに入り込むと、ミーアは敷き藁に坐り込んで、背中をぴったり壁に押し付けた。
薄い板壁の向こうは、家の中。
中の人声は、十分に聞こえる。
「『走る狐』の炉辺から話が来た」
砂漠に暮らす壮年の男の、低いしゃがれた声。
ちょうど本題に入った所らしい。
「お前を、三番目の妻に欲しいと」
叔母が固い声で答える。
「嫁ぐ気はございません」
「この若さで寡婦同然の暮らしを続けるのか。
あれだけのターロの腕を持ちながら、惜しいとは思わんのか!
狐の炉辺に入れば、家のターロを継ぐことが出来るのだぞ」
「ミアリスはどうなります」
自分の名が出て、ミーアはビクンと身をすくめた。
「連れて行ってもよいという。
破格の申し出だぞ」
「私の姪として?」
「・・・いや・・・下女として使ってやると」
「下女では『織り手』の試験を受ける資格を失ってしまう。
あの子は、私の縁者として試験に臨ませます」
「あと七年もあるではないか!
それではお前の婚期が過ぎる!
このままでは、宝の持ち腐れだ」
「家のターロは中の姉が継げばよろしいのですよ」
「あれは根気も才もない!織り手には向いておらぬのだ」
「一番の才のあった大姉を無理やり族長に嫁がせたのは叔父上ではないですか。
あれほど織り手になることを望んで、夢見ていたのに」
叔母はきっぱりと言い切った。
「ミアリスは大姉の才を受け継ぐ娘。
あと七年、私の下でターロを続け、私の縁者として『織り手』の試験を受けます。
大姉のターロはあの子が継いでくれるでしょう」
「我が『熊』の炉辺は、あれを一族とは認めぬ!」
「ですから、私も炉辺には戻りません。
すべては大いなる『運命の織り手』さまの御心のままに」