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砂漠の織り手  作者: 葉月秋子
1/43

1 砂漠の民


「♪私の紐は良い紐だ。

 固く結ぼれ決してほつれず

 解きたいときはさらりと解ける♫」


 とん、しゅっ、ととん、しゅっ、ととん。

 とん、しゅっ、ととん、しゅっ、ととん。


「♪固く結ぼれ背の荷を守れ

 固く結ぼれ(いも)()を守れ♫」


 とん、しゅっ、ととん、しゅっ、ととん。

 とん、しゅっ、ととん、しゅっ、ととん。





「お兄さん、そこのお兄さん、長旅のしたくかい?

 ならこれがおすすめだ。ほんまもののトゥリアークの組み紐だよ。

 長い旅にはぜひ一本。重宝すること請け合いだ」


 炎天の市場、日除けの幕の下に拡げられた雑貨の中から、ひと括りの紐の束を差し出したのは、砂漠の陽に晒された茶色の顔に愛想笑いを浮かべた中年の男。

「新品のトゥリアークの荷造り紐が、いまならたった銀貨十枚だ!」


「高っ!」


 良い身なりの二人連れの青年の、年かさの方が声を上げる。


「銀貨十枚だと!相場の十倍以上じやないか!

 ふっかけるにもほどがあるぞ」


「ほんまものだと言うたろうが。

 絶対切れず、荷崩れもせん便利もんだぞ。

 トゥリアークのまじない紐を使わん交易商人なんぞとんだモグリじゃよ」


「『まじない紐』だと?」

 連れの若い男が手を伸ばす。

「見せてみろ」


 手に取った組み紐の束に手を翳し、引っ張り、編み目を調べる。


「たしかに。粗野だが魔力が編み込まれている。

 トゥリアークと言ったか」

「交易を営む砂漠の民だな」


 二人の言葉に、売り手は怯み、相手をしげしげと観察する。


 丘一つ越えれば砂漠が始まる、辺境の市場。

 大きなターバンに上質の麻の長衣、精緻な刺繍の袖なしの上着というハナハ族の衣装をまとい、マントを腕にかけて、物珍し気に品々を見回る若者二人を、良いとこのぼんぼんで新米の交易商人と読んだが。

 交易商人がトゥリアークの名を知らぬはずが・・・


「わあっ!」


 叫び声に振り返ると、粗朶の山を積んだロバがこちらに走り込んで来た。

 客をはね飛ばし、商品を蹴散らし、粗朶を撒き散らして逃げていく。


 はね飛ばされて尻餅をついた若者の手から、さっと紐の束が引き抜かれた。

 ロバの尻に鞭をあてたのは、埃にまみれた砂漠の民。

 鋭い黒い目が、ぎろりと若者の頭を睨む。

 ターバンが解け、剥き出しになった若者の、陽にきらめく金の髪と青い眼。


「えっ、金髪!」

「王国人か?」


 あたりにざわめきが走る。


 まずい!


 相方があわててマントをかぶせ、引き起こす。

「髪を見られた。急いで離れましょう」

「まて、あの紐を!」


 しかし売り手は敷布で商品をひっからげ、すたこらさっさと逃げていく。

 王国人に砂漠の民の品を売ったりしたら、袋叩きにあっちまう。


 不穏な空気の市場を離れ、二人は宿に逃げ込んだ。



「危ない処でした、王子。

 王国人とわかって囲まれたら、ただではすみませんぞ」

「しかし、収穫はあった。下賤な服に着替えたかいはあったぞ!トゥアリクだと?」

「トゥリアーク。砂漠の中の小さな国です」


「あんな雑貨にまで魔力を組み込むとは!

 強力な魔力持ちがいる可能性が強い!」


 


 

 


 

 


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