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勇者をたずねて三万里  作者: まほろば太郎
3/3

酒場での回想

 酒の入ったグラスを照明にかざしながら、これまでのことを振り返ると、自分のことながら不運な人生であったように思う。


 継ぐべき家業もなかったので、両親は、手に職を持たせようと訓練所に入れてくれた。

 それがそもそもの間違いで、絵を描くことに熱中していた子供が訓練についていけるはずもなく、訓練では同期の背中を追いかけて過ごした。

 剣術、弓術、格闘、魔法を一通り学んだが、飛び抜けて秀でることもなく、かといって扱えない技術もなかった。それがまた問題で、周りも自分も、いつか芽が出る可能性があるからには、訓練の道を諦めることもできず、最も苦しい基礎訓練を5年継続することになった。遅くとも数年で、得意分野の専門訓練に進んでいるのが普通であるのに、5年も基礎をやっている者などいなかった。


 指導者も、どうもこの少年は、ここまでの実力しか育たないのではないかと思ったのか、比較的専門とする人間が少ない補助魔法をやってみないかと勧められ、言われるがままにその道を選んだ。


 補助魔法の専門訓練は、基礎訓練の苦しさから解放されることの喜びで、さしたる理由もなく選択したものだったが、これが最悪だった。

 世の中、怪物の脅威を打ち倒す剣技や魔法技術の研究は盛んであるのに対し、補助魔法などとカテゴリーされているものの、指導者も少なく、かつ研究熱意のある人間もいないのが実際だったのだ。


 半年で師匠が扱う全ての補助魔法を習得した時、ある疑問をぶつけた。



「これで終わりすか?」



 無論、これで終わりだった。


 終わりと言えば終わりなのだが、思えばこれが始まりで、転機であったように思う。

 補助魔法の研究に没頭したのだ。


 

 補助魔法を一言で言うなら、何かを強めたり弱めたりするもので、それ以外にはない。というのが、自分の考えであり、強弱をつけるエネルギーの種類によってコツはあるが、要はそういうものだと結論づけた。


 専門訓練は通常3年から5年だが、自分は訓練を2年、研究には7年を費やした。具体的には、強弱をつけられる種類と範囲を増やし、威力と持続力を磨き続けた。

 能力の向上に対して、周りが全く評価しなかったことが、逆に気持ちを燃えさせたのかもしれない。


 研究にのめり込むのは幸せな時間だったが、それも永遠ではなく、実家が火事になったことで学費が捻出できなくなり、補助魔法を生かした就職口も見つからず、故郷に見切りをつけて旅に出たのだった。


 そして、いきなり財産の半分が崖から落ちていったわけだ。



「ふっ。」



 笑うしかなかった。



 不安を振り払うように髪をかきあげ、グラスに新たな葡萄酒をそそぐ。


 自分の境遇とは対照的に、グラスは美しく輝き、赤く深みのある葡萄酒は重厚な香りが漂っている。

 強弱相反する9種類の補助魔法を、グラスと酒別々に同時にかけて持続させるという、高度な技術による美しさなのだが、現時点でこの能力は金にならない。



「力の無駄遣いだな。」



 男の言葉には、自虐的な響きがあった。

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