旅立って二日目
物事には計画が大切だ。
旅をするにしても、無理のない行程、十分な食料、身の安全を確保する方法、そういう計画が必要だ。
十日間かけて綿密な出発準備をし、無理のない旅程計画を立てたのには、我ながら自信があった。
後方がなにやら騒がしいので振り返ると、雇った護衛が荷馬車ごと滑落していくところで、その様は、不思議と止まっているようにゆっくりだった。
身の危険が迫った瞬間特有の時間を超越した感覚が、直接危険に晒されなくとも発動することは、ひとつの発見だ。
急な出来事で、しばらく事態が飲み込めてなかったのか、事の重大さに気づいて叫ぶ。
「待ってくれー」
無論待ってくれなかった。
総額金貨35枚が転がり落ちて、もう見えない。にわかに一月暮らせる金額を失い、膝をつく。
「そんな険しくないですやん…」
放心状態の中、拳ほどの大きさの石が目につく。
石の周辺の轍から見ると、どうやらこれが滑落の原因らしい。
そういえば、他流試合で格下を相手にする時に、「大きな石には躓かない、小さな石にこそ躓く」と師匠が言っていたのを思い出す。これも、そういうことなのだろう。
この山を越えれば、港町まですぐだ。金貨35枚は痛手だが、全財産というわけじゃない。先を急ごう。