お題:夏の花⑤
いやっはぁ!!この時期を待ってたZE☆
俺はカメラマン。
戦場カメラマンかって?
まぁ仕事を始めりゃ何処も戦場みたいなモンだけど・・俺はこの平和な日本から出た事は無ぇ。
この世の中は需要と供給。
可愛ければ、色っぽければOKなんて奴もいるが、季節感は大事にされてる。
そして初夏。
この時期に活躍するのが、そう、水着である。
まだ肌寒い時期に無理やり水着を着せて、早取りする事もあるが、寒さに震える女の子が健気に頑張る姿は痛々しいので、好んでやりたい仕事じゃない。
俺もプロだし、女の子のプロだし、何しろ仕事だ。やるにはやるが、こんな表情を引き出せるか?というとまた別の話である。
女の子の被れる仮面の数には驚嘆するし、俺にだって春の天候を夏に見せる技術はある。
が、所詮、偽物は偽物なのだ。
「いいネ!じゃあ次はもっと胸を寄せる感じで…顎を引いて!目線こっち♪」
カシャッ、カシャッ
真夏の花…水着ギャル(死語)達が浜ではしゃぐシーンを撮影している。
もちろん仕事だ。
世の中に、こんな楽しい仕事が他にあるか?いや、無いね(反語)。
バイン、と自己主張する果実も素敵だが、個人的にはプルン、くらいが至高だ。
こう・・前かがみになって・・上目遣い来たよ!バッチリ!!
うはっ、楽しい☆
これは戦場じゃないね、むしろ天国と言っていい。
「いい表情が撮れたよ。じゃ、次は小道具使おう。」
さすがにグラビアアイドルは何を持たせてもうまくポーズをとる。
鏡の前で毎日、自身を研究する探求者なのだ。
シチュエーションは指定しよう。ある程度の題目が無いと、彼女達を困惑させてしまう。
あとは自分の魅力を引き出すポーズの引き出しを、好きに開け閉めさせればいい。
そして、カメラにどう写すかが俺の仕事。注文をつけて微調整を図る。
「いいネ、いいネ!」
口癖になってしまったが、本当に素晴らしい。いい仕事をしている。
ビーチボール、サンダル、パラソル、浮き輪、ゴムボート、麦わら帽子…
チェアに寝そべったり、女の子同士で顔と胸を競うようにを寄せ合って笑い合ったり。
ある程度撮ったら、定番の水の掛け合いだ。
夢中でシャッターを切る俺に、話しかける女性がいた。
「すみません!・・ここ、遊泳禁止なんです。」
「!」
美しかった。
白。第一印象を持っていかれた、透明感すら感じる肌。
どこかの若女将なのだろうか。華やかながらもどこか地味な色使いの和服が、よく似合う。
カシャリ。
心のシャッターが切られ、脳髄に、鮮烈に焼き付いたのがわかった。
いや、反射的にシャッターを切っていた。
さすがプロのカメラマン。自画自賛、そして保存(物理)だ。
その花は、目の前で謳歌している真夏の花なんて霞んでしまうくらい清楚で・・・
花は、蕾が開いて咲ききる前でも美しいんだ、って思った。
シャッターを切って以降、俺の体は動かない。
それだけの衝撃を受けたのだ。
あ。返事。
返事だけじゃ駄目だ。どうする?
この場を何とかして繋がなければ!
俺は、初めて体験するこの感覚をどうしていいのか分からず、しかし「何かしなければ」と焦り、手近な撮影道具を差し出した。
「よ…良かったらこれ…着てみてくださいッ!」
何やってんだ俺。
それは何でもござれなグラドルにさえ拒否された、「際どい水着」だった。
手渡され、ハラリ、と広がったそれを見た女性は一瞬、呆気にとられた様子でそれを見た。
が、一気に顔を紅潮させる。
「キャアァッ!」
バッチーーン!!!
俺の頬にピンク色の花が咲いたのは言うまでもない。
title:夏の花 ~カメラMan~