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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第1章 強欲は欲深い
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第9話 強欲は振り返る

カードの束が手元に出現したのを確認した私は、それを1つ1つ確認しようとした。しかしその時予想だにしない言葉を投げかけられる。


「ああ、それ久しぶりに見たな」

声の主は勿論ヴェルだ。回収している最中に他の竜に襲われでもしたらひとたまりもないから一緒に来る様に言ったのだが、どうやら失敗だった様だ。

しかし、まだ勘違いしているという可能性もある為念のため聞いてみる?

「あなた、これがなんなのか知っているの?」

間違った答えが出てくるようなら好都合と考えてのことだ。

しかしその期待は裏切られる。

「【強欲】のカードだろう?あれ?違ったか?」

残念ながら正解だ。どうやら誤魔化しはききそうにないわね。




【強欲】の称号を得たのは割と最近だ。

時間で言えば神器を盗む3ヶ月前のことになる。


天界には比較的良質なものが多い。

そこら辺に生えている果実ひとつ取っても『知恵の実』だとか『天の雫』とか言われている。

それ故か天界の権力者達はそれらの物を勝手に使用することを禁止していた。


だけど私は欲しかった。

あの赤い果実や黄金色の魚はどの様な味がするのだろう。

あの水で育てた種はどの様に芽吹くのだろう。

いつか食べて見たい、いつか使って見たいと常に狙っていたのだ。


ある日のことだ、私は耐えられなくなり近くの木の果実を勝手に食べた。

それを口にした時に感じたのはただひたすらの感動だった。瑞々しさもさることながら、口の中に広がる甘味は形容し難いものがあったからだ。

それと同時に周りの天使達はなぜ、これほどに愚かなのだろうと思った。

だって、そうでしょう?

こんなに美味しいものをただひたすらに放置しているのですもの。



それから先は早かった。

自分の欲のままに、いままで試して見たかったことを片っ端から実行していった。

天界のものは私を飽きさせなかった。

1つ1つが私の想像を超える結果を見せてくれたからだ。

もっと…

まだ足りない……

気がつけば1つ手に入れるたびに2つ欲しがるようになっていた。

その時だった。

不意に頭に声が響いたのだ。

『貴女は【強欲】に選ばれました。特殊技能スキルが解放されました。』

その声を聞いた瞬間、私は理解した。


あぁ………


世界は私を認めているののだと。




その後は知っての通りだ、欲に従い神器を盗みそれが発覚。

天界から逃げ出す羽目になった。



あぁ、最近の事なのにすごく懐かしい気がするなあ、

という感じに過去を振り返っていると、急に黙った私を心配したのかヴェルが声をかけてくる。

「あの?大丈夫か?気に障ったのならあやまるけど。」

「いいえ、問題ないわ。それにしても知ってたのね?」

大罪系の特殊技能スキルなんて到底お目にかかれるものでは無いはずなのに、彼は久しぶりに見たと言っていた。

「俺の昔の知り合いが持ってた能力だからな。一時期は毎日のように見てたよ。」

そう口にした彼は何処か悲しいような、嬉しいような表情を浮かべていた。

私は、何故かそれを見て胸が痛くなる。自分の異常に戸惑いは覚えたからか強引に彼を引き戻す。

「それより見てよこれ!!」

何かを誤魔化すかのように取り出したそれは、先ほどの竜を素材ごとにカード化したものだった。

「竜の素材がこんなに一杯手に入るなんて、ヴェルのおかげね。感謝するわ!!」

そう言うと彼は少し嬉しそうに、

「そうか、喜んで貰えたなら何よりだ。何なら俺が落とした他のやつの素材もあげようか?」

とこちらを見てくる。

「その提案には少し心を踊らされるのだけれども、無理でしょうね」

「え!?あ!?」

ようやく気付いたのかヴェルは辺りを見渡している。

そこにはもう飛んでいる飛竜は残っておらず、飛竜を引きずるもの達が門に向かって歩いている。

ヴェルが落とした飛竜も他の者に回収されたみたいだ。

「あぁ、俺の今日の夕飯が………」

ヴェルは見るからに落ち込んでいた。

流石に私の頼みを聞いて夕飯の素材が無いのはかわいそうだ。

うなだれている彼を見かねた私は手を差し伸べる。

「これ、あげるわよ。」

そう言って差し出したのは勿論、先程のカードだ。

『Aーブラックドラゴンの肉』

そうカードには記されている。

「いいのか?」

何故か遠慮しがちにヴェルは聞いてくる。

ここら辺は性分でしょうね。人からの施しは受けたくないタイプみたいだ。

大方、迷惑になるとか思っているのでしょうけど、

「いいもなにも、これ、あんたが落とした竜の肉だからね。それでも気がひけると言うなら、私にもご馳走しなさい!!」

わたしはそう言い放った。

その言葉に納得したのか彼はそのカードを受け取り、

「じゃあお言葉に甘えて。」

と言った。



余談だけれども、

街に戻ると肉屋はどこも閉まっていた。

あれだけの持ち込みがあったのだから当然だろう。普通ならこうなれば諦めるしかないらしいのだけれど、今回は私がいたから大丈夫だったっぽい。

「いや〜、助かったよ。当初の予定としてはサクッと数匹狩って早めに街に戻るつもりだったからさ。」


私達の前には解体された肉の塊が置いてあった。


【強欲】の能力でカード化される際、基本的に部位ごとにバラバラになるのだ。

私はふふん♪と鼻を鳴らして得意げになっていた。


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気が向いたらよろしくお願いします。

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