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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第4章 始まりの戦い
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第81話 出し惜しみなしの短期決戦

飛ばされた私を追いかけるように、ミカエラが空を飛んでこちらまでやってきた。


「あらあらイルさん、こんなところまで飛ばされていましたの?」

完全に私をおちょくっている。

だが、これにイライラしていては状況が悪くなるだけだと容易に想像できる。


「ちょっと空の旅を楽しみたくなったのよ。別に飛ばされたわけじゃないわ。」

精いっぱいの強がりだ。

私の腕は途中から断絶されており、そのせいでバランスがとりにくい。


人体がなぜ左右対称なのか、それがよくわかる経験だった。


「あらあら。強がってないで素直に負けを認めればいいのに、そのちぎれた腕もとっても痛そうだわ。」

ミカエラが言葉だけは私を心配してくれる。

だが、その言葉に含まれた意味は簡単に読み取れる。要するに馬鹿にされているのだ。


それでも私は冷静さを失わない。

別に、腕が一本どうこうなって戦えなくなる私じゃないのだ。


「ふふっ、あなたでも知らないことはあったのね。【強欲】はこういう使い方もできるのよ。」

私は一枚のカードを取り出し、それを腕の切断面にあててそのまま実体化させる。


少しの光、それが傷口を覆い隠し、その直後に先ほどまでなかった腕がその場所から現れているのが目に映った。


「あら?ずいぶんと醜い姿ですこと・・・天使の風上にも置けませんわ。」

ずいぶんな言われようだが、言い返す言葉はない。

切断された私の右腕、二の腕から先には薄黒い腕が生えていた。

これはブラックドラゴンの腕だ。

【強欲】のカードにてアイテムを実体化させるとき、その物体が重なっているとそれらが融合される。


これは普段は注意して使うべきところなのだが、使いようによってはこうやってなくなった部位を補うこともできる。

まだヴェルにも見せていない文字通りの奥の手のひとつだ。

ただ問題があるとするならば、今無理矢理くっつけた腕は大きすぎるというところだろうか?


先ほどまでは右腕を失って左に重心がずれていたところを、今は必死に右に倒れないようにしなければいけないくらいだ。


「そうね。これが終わったら落ちている自分の腕でも拾ってくっつけるわよ。」


「ふふ、、イルさんたら。この状況でまだ勝てると思っていらっしゃるのかしら?」

ミカエラは先ほど私から奪った剣を片手にそう言って笑う。

確かに、自力で負けている私がミカエラを圧倒できるようになるほどの剣を、彼女が持っているのだ。

どう見ても私の敗色濃厚というやつだろう。


「やってみないと案外わからないもの、よ!!」

私はその声と同時に、巨大な右腕を振りまわした。

この不安定な腕、これは普通に腕としてではなく武器として使ったほうが多分だが強い。


気分としては巨大なハンマーが自分の腕から生えている感覚だ。


「戦い方も醜いですわ。」

ミカエラはそれを余裕をもって避ける。

そして迫りくる腕をもう一度切り離してやろうと私の腕を切り上げる。

鮮血とともに、巨大な腕が宙を舞った。


あの切れ味のもとに、私の新しい腕が飛んでいったのだ。

少しだけ痛いが、所詮は急造の腕、融合がうまくいっていなかったのだろう。


「ここね!!」

巨大な腕、それそのものと吹き出す鮮血で視界を奪い、私はミカエラに詰め寄る。

狙いは当然、彼女の持っている剣だ。

あれさえ奪ってしまえばあとはどうとでもなる。


「流石に短絡的過ぎよ。それじゃあだめだわ。」

彼女もそれをわかっているのだろう。

剣を持つ手に力を込めており、剣の持つ膂力強化の効果が重なり私じゃあはぎとることはできない。

視界を奪われても、これを離すつもりはないらしい。


なんなら攻撃を受けても握り締めているだろう。

彼女も軽傷というわけではないのだが、それくらいは許容しそうだ。


「あらそう?さっき見せたからやっぱりばれちゃったみたいね。」

だが、別に強く握りしめられても問題はない。

流石に今の私に目の前の剣をカード化した後再度実体化させてミカエラを倒すほど体力が残っているわけではないが、普通にものを取り出すくらいならできる。


私は適当なカードを数枚、剣の刀身に当てて実体化させた。

出てきたのはよくわからない魔物の鱗や、いつの日か倒しに行ったクォーツドラゴンの素材のあまり、あと天界でくすねた木の実などが一気にその場に現れる。


当然、それは剣の刀身と重なっているわけで・・・・


剣はその体を強化するという特殊能力を秘めてはいるものの、それを持ったまま戦うくらいなら手放したほうがましだというものになっていた。

重心は前に偏りすぎていて、とてもじゃないが武器として扱えるものではない。


素材が素材なので折れてしまうことは無いが、いつ折れてもおかしくなさそうな見た目をしている。


「あら、これは油断しましたわ。わたくしとしたことが・・・」

ミカエラは先ほどまで大切に持っていた剣を即座に手放した。

やはりあれを持ったままの戦闘は無理があるようだ。


先ほど同時にアイテムを取り出したせいで結構体力を消耗したみたいね。

脚にそれほど力が入らない。

これは長期戦は無理そうだ。最悪の状況だけは脱したが短期決戦、それ以外に勝ち目はない。


「あと少しだけ、付き合ってもらうわよ。」

私はこれが最後だろうと思いながら一枚のカードを取り出した。





ルーフィルのやつはどこまでも余裕ぶっている。

だが、その余裕がいつまで続くか、ある意味見ものだ。

先ほどは頭に血が上って自分の手であいつを引き裂いてやることしか考えられなかったが、今ならそうでもない。

【怠惰】の力を使ってそのまま殺す。


これならまた何かをされる前に確実に殺すことができる。

はたから見たら全く冷静になってはいないが、先ほどよりはましといえる考えだった。


ヴェルは容赦なくその力を解き放つ。

怠惰の力は気力を奪う、その代償は大きいが視界に入ってさえいればどんな相手からでも抵抗を許さずだ。

彼は迷わず、ルーフィルの体から『生きる気力を』根こそぎ奪い始めた。


【怠惰】の特殊能力は使う際の代償として相手から奪ったものは同時に自分からも奪われる。

自分にないものは奪われないが、今回は例外なくヴェル本人もその体がから生きる気力を奪われて行っていた。


「ははっ、凄いですね。迷いなく殺しに来ますか。」

嘲笑しているように見えるルーフィルも、これには少し辛そうだ。

そうだろう。これは抵抗なんてものは一切許さず、細胞そのものが自己的に死に向かっているのだから。


だがそれは、行っている本人も同じことだった。


ミカエラとイル同様、こちらの戦いもすぐに決着が尽きそうだ。


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