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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第4章 始まりの戦い
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第79話 過去と今と

走る―――ただただ走り続けた。


何のためだったか、それだけは明確に覚えている。


それを俺が忘れるはずがない。


そう、俺は――――あいつに、過去に俺たちの街を滅ぼしたあの憎き男に今、復讐するために走っているのだ。

俺の顔はその時笑っていたのだが、それに気づくものはどこにもいなかった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――


今回の戦いにおける私が用意した最大の切り札。

それを今、ミカエラに対して使うことを決意した。


ここで使わなければ、使う前に私のほうが死んでしまうからだ。


私は手にしたカードを実体化させると同時、それが完全に形になる前につかみ振り払った。


ミカエラはそれを難なく手に持っている槍で受け止める――――ことが出来ずに大きく後ろに吹き飛ばされた。

そして彼女は、その勢いのまま家屋の壁にたたきつけられる。


「あらぁ?何が・・・?」

困惑したような声を上げながら、壁を背にしてこちらを見るミカエラ、そして私の手に持っている物を見て、その動きを止めてしまう。


「どうかしたかしら?そんなに目を見開いて、綺麗な顔が台無しよ。」

私は少し挑発気味にそう言った。


「あなた・・・・なにをしてくださいましたの・・・?」

ミカエラの怒気を孕んだ声が、私のもとに届けられる。

口調こそいつも通りだが、その声には抑えきれない怒りが感じられたのだ。


彼女の目は今、鋭く私のほうに向いている。


「さぁ?何のことかしらね?私がやったことといえば、あなたたちに負けない準備くらいよ?」

ミカエラも、私の手に握られている『これ』が何なのかはわかっているのだろう。


でも、だからといって説明してやる義理もない。


「じゃあ、そろそろ行くわよ?」

私は彼女の体勢が整いきる前に、速攻をかける。

私の手に握られているのは一本の剣。


一見すると何の装飾もない、そこらへんにでもありそうなただの剣だが、その中に秘められた力はすさまじいものがあった。


私はその剣を引き、ミカエラに向かって突き出した。


私はそこまで戦闘が得意なわけではなかったため、技量なんてものはほとんどない素人が行ったようなつきだったが、ミカエラはそれを受け止めることはおろか受け流すことすらできないでいた。


―――カァン!!


という音が響き、ミカエラは手に持っている槍を取り落としてしまう。


ここが最大のチャンスだ。

そう判断した私は剣の勢いはそのままに体を前に押し出すことでそれを押し進めた。



私の剣がミカエラの胸部に突き刺さる。

これはいかに熾天使といえど致命傷になりかねない、痛烈な一撃だ。


だが、しかし、それを受けたミカエラの顔は笑っていた。



「捕まえましたわよ!!」


彼女は自分の胸に突き刺さった剣の刃を素手でつかみ、それをそのまま引き始めた。


―――ズブ、、ズブ、、、


それは少しずつミカエラの体に飲み込まれるように突き刺さっていく。

だが、当の本人は何も問題はないという様子でその行動を続ける。


このまま私の手から剣をからめとるつもりなのだろう。


そうなってしまってはいかにミカエラが手負いの状態であったとしても勝てるという保証はない。


私は先ほどまで前にかけていた体重を後ろに引くことで彼女から剣を引き抜こうとする――――が、抜けない。


その剣はいまだにミカエラのほうに引き込まれていく動きを止めない。


「あら?ミカエラ、そんなことをしていいのかしら?あなた、下手したら死ぬわよ?」


「イシュルさんこそ、天使の頂点を舐めないでいただきますか?わたくしはこの程度では死にませんわ?」



口の話から血を垂らしながら、にこやかな笑みを浮かべたまま剣を引き続けるミカエラ。


そしてついに、彼女は私の手から剣をからめとることに成功していた。

客観的に見たら成功率のほうが低いであろうその行為、私が対応を間違えなければ成功する可能性さえなかったその行動を彼女は最後までやってのけたのだ。


ミカエラは笑いながら私の手から奪い取った剣を構える。



「全く、聖槍を素材に武器を作るなんて、考えられませんわ。天界の宝を何だと思っているのかしら?」

彼女は自分の手の内に収まっている剣を軽く振りながらそう言った。


そうだ。

あの剣の素材は聖槍と私が最近使っていた籠手でできている。

トロイヤに無理を言って作ってもらったものだ。


圧倒的に性能が高い装備品二つを掛け合わせたその剣の効果はすさまじく、並みの武器では太刀打ちできないほどのものになっている。

そしてそれが今、私の手から奪われてミカエラの手に収まっている。


自力で負けている以上、装備品でその差を補うしかない。


そう思って作ってきたあの剣だが、それがあだとなってしまったみたいだ。

胸を貫いてしまえば、致命傷に近いだろう。


そんな甘い考えが招いた失態であるともいえる。

彼女は言葉通り、胸部に穴を作りながらもまだ戦えるだけの体力は残しているはずだ。


その証拠といってはなんだが、彼女の足はしっかりと地についており、少なくとも今見ている限りでは倒れるような雰囲気は出していない。



「強いものと強いものを掛け合わせたらもっと強くなるはずでしょ?いいじゃない。天界の宝が強化されたと考えれば・・・」


私は苦笑するようにそう言った。


「はぁ、あなたは何もわかっていないのですか?この剣には美しさが足りません。強ければいいというわけではないのですよ?」

彼女は私に教育でもするかのような口調でそう受け答えをする。



「そう?装飾が全くない部分とか、結構味が出ている気がしないかしら?少なくとも、機能美にはあふれているわよ?」


今、ミカエラを倒すことのできる手はないか?

そんなことを考えながら、私は冗談でも言うように彼女の手に握られている剣について思っていることを述べる。


「やっぱり、あなたとはあまり気が合いそうにないですね。」



ため息をつくようにそう言ったミカエラは、次の瞬間に私から奪い取った剣を振りかぶりこちらに向かって走ってきた。



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