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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第4章 始まりの戦い
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第78話 戻ってきた男

少し、また少しと時間が経過していく。


周りに集まってくる天使たちはある時を境にその数を増やすことをやめていた。

おそらく、街に残っていたすべての個体がここに集まり切ったのだろう。


もうこれ以上は増えることはない、そのこと事態はいいことだ。


これで街に被害が出ないのだから・・・・だが、大量に集まった天使は、結界が解除された瞬間、すべてが私に襲い掛かってくるのだと思うと、少し気が重かった。


結界の残り時間はあと半分程度、その間に、何か打開策を打ち立てなければ、私がやられてしまうのは確かなことだった。


「あらあら、ずいぶんとみっともない姿ですわねイシュルさん。」

その時、聞き覚えのある声が頭上から降ってくる。


反射的に上を見た私の視界に入ってきたのは、以前とは違い完全武装のミカエラの姿だった。

その手には依然と同じように神聖な雰囲気を醸し出している槍が握られている。


「ミカエラ・・・今更何しに来たのかしら?」


「前回の反省を活かして、今回は少しゆっくりここに来たのですが、なにやら面白い状況ですわね。」

うふふ、っと笑いながら私を見下ろしてくるミカエラ。


口は笑っていながら、その目は全くと言っていいほど笑ってはいなかった。


彼女はその手に持っている槍を構える。

そして一言、


「ではイシュルさんは、そんなところに引きこもっていないで早く出てきてくださいな。」

その言葉とともに、彼女の持つ槍が投擲された。


その槍は、一直線に私のもとに飛んできて、結界に阻まれて止まる。

―――パリン、、何かが割れるような音があたりに響き渡った。

何の音かは、考えるまでもない。

私を今まで守り続けてきた結界が、砕かれた音だ。


私の周りで屯していた天使が、一斉に攻め込んでくる。

これはさすがに不味いわ。


周りには天使、頭上には自分より強いミカエラ、どこにも逃げ場はない。

これは最終手段を―――――――


そこまで考えたところで、私の耳がおかしな音を拾った。


なんだ?何か雄たけびのような・・・・気のせいだろうか?


「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

いや、気のせいなどではない。多数の声が重なり合ったその雄たけびは、真っすぐとこちらに向かって来ている。


――――――ドカン!!


その時、私の近くの地面に何かが爆音を立てて突き刺さった。

土煙が舞い上がる。


「あらあら?見ないと思ったら、そんなところにいましたか。」


「ああ、こんなところにいましたよ。」

上からの言葉に、土煙の中から返答がある。とても聞き覚えのある声、一週間前に出ていったっきり一度も姿を現さなかった男の声だ。


「ヴェル!!戻ってきたのね!!」


「ああ、待たせちまったな。本当はもっと早く戻るつもりだったんだが、数が多くてな。」

彼は毅然とした態度で、そう口にする。―――ん?数?


「突撃だああああああああ!!」

彼の言葉の答えは、それを目にした瞬間に理解できた。

先ほどまで私の方向を向いていた天使たちは、もうすでに別の方向を向いていた。


その視線の先には、私服の戦士たちが天使を強襲する姿があった。

どことなく、見覚えがあるような気がする人たちは、天使など物の数ではない、という風にどんどん天使たちを蹴散らしていく。


それはもはや戦闘ですらない蹂躙劇だった。


「あらあら?どこにあんな戦力を隠し持っていたのかしら?」

さぞ驚いたといいたげな表情で、ミカエラがそう述べる。


「すごいだろ?俺の自慢の友人たちだ天使なんかに、負けるはずがねえ。」

どこか誇らしげな表情でそう告げるヴェルの姿。

ああ、思い出した。


彼らは隣町の人間だ。

ヴェルはこの一週間で、足りない街の戦力を補うといっていた。その結果が、この私服集団なのだろう。

足りないならば、別の場所から持ってくればいい


誰にでも考え突くが、1週間でやろうと思えばとてつもなく困難なこと・・・それを彼は成し遂げたというのだ。

「全く、あなたには頭が下がるわね。」

彼には聞こえないように、私はつぶやきをこぼす。そして、


「ヴェル、街の西側に向かいなさい。そこでダインとルークが待っているはずよ!!」


「いや、でも、ここを離れるわけにはいかないだろう?まだあいつが残っているんだぞ?」

私の言葉に彼はミカエラを指さすことで答える。

「いいから早くいく!!ここは私に任せておきなさい、必ず彼女を撃破して、あなたを追いかけるから!!」

私は彼の背中を強めに叩く。


「いいんだな?」


「ええ、任せておきなさい!!その代わり、あの男はあなたが倒すのよ!!」


「わかった!!絶対に倒して来いよ!!」


彼はこの場所に来た時に、同じ行動をとったと思われる跳躍で、一気にこの場を離脱した。


「あら?言ってしまいましたね。それにしてもイシュルさん、あなたが私に勝てると思っているのですか?」

先ほどの発言が、少し頭に来たのだろうか?いつも穏やかな笑みを浮かべている彼女は少し怒ったような顔をしながら聞いてくる。


「ええ、あなたくらい、ちょちょっと倒して彼を追いかけることにするわ。」


私は宙を舞う天使の女王を打倒すべく、この日のために用意した道具を取り出した。


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