第8話 強欲は欲しがる
黒い飛竜が現れた瞬間、私に真っ先に芽生えた感情は欲だった。
ーーーあの竜が欲しいーーー
だが私は自分の実力を把握していないほど無能ではない。
だから私は大きく息を吸って声をあげた。
「ヴェル、ちょっとこっちにきてくれないかしら」
相手は当然遠くで竜を落としているヴェルだ。
ヴェルはこちらの声に気づくとすぐさま駆けつけてくれた。
「どうした?なにか問題でもあったのか?」
「ヴェルはあの竜が見えるかしら?」
そう言って遠くでこちらを見下ろしている黒竜を指差す。
ヴェルはその方向を見るや否や少し驚いた顔をした。
「おぉー、珍しいのが飛んでるな。あれがどうかしたのか?」
どうやら今まで狩りに夢中になっていたせいで気付いていなかった様だ。
「決まっているじゃない。あれが欲しいのよ。」
どうしたかと聞かれたので呼び出した要件を簡潔に伝える。
「あー、まあどうせ見つけたからには狩るつもりだったからなぁ。分かった、とってくるよ。」
やはりこの男、頼まれたことは断らないらしい。
そこそこ無茶なお願いだと自覚はしていたが、二つ返事で了承してくれた。
それはそうと、
「頼んだ私が言うのもなんだけどヴェルはどうやってあれを落とすつもりなの?」
そう、私が彼を呼んだ理由はそこにある。
その黒竜はかなりの高度を飛んでおり、こちらの攻撃が届きそうにないのだ。
「ああ、こうやるんだ」
ヴェルは何も問題がないと言った様子で答える。
そして黒竜に向かい手を掲げる。
その数秒後
その黒竜は突然力を失ったかの様に落ち始めた。
「ちょっ、あのでかいのが落ち始めたぞ。」
「退避、退避ーーー!!!」
大質量が落ちてくるという危険を察知したのか落下地点になるであろう場所にいた者たちは即座にその場から離れる。
その少し後、ついに黒竜が轟音と共に地面に激突した。
「あの異様な落ち方は何?街の人達は当然のごとく対処してたけどあれはこの街では普通のことなの?」
普通に考えて竜が理由も無しに落ちるはずがない。
原因があるとするならば、さっきヴェルが手をかざしたことくらいしか思いつかないが、手をかざしただけで竜が落ちてくるとは思えない。
端的に言って、異常なのだ。
考えても答えは出ない。
「あれは一応【怠惰】の力だな。ここでは普通の現象という気は無いけど飛んでる奴がいたらよく落としてたから慣れたんだろうな。」
【怠惰】の力って使い様によっては相当危ないのね。天使部隊を一瞬で気絶させたり、竜を触らずに落としたり、でもそれはいいわ。
それよりも大事なことがあるもの。
「じゃあ早速回収に向かうわよ。」
私は巨大な竜が落下し、クレーターができている地点へと向かう。
私がいた場所と落下地点はそこまで離れていなかったこともあり、すぐにその姿を確認することが出来た。
かなりの高度からの落下により黒竜は死に絶えていたが問題はない。
必要なのはその体なのだ。
流石は竜の体だ。地面と激突した部分は潰れたり壊れたりしていて使い物にならないだろうが、大部分は綺麗なままだ。
私はその状態の良さに満足して特殊技能を発動させる。
そしてそれと同時に、黒竜の体はその場から消え去った。
その光景は街の者たちも初めて見るのかとても興味深そうにこちらを見てくる。
その表情に私は少し得意げになる。
「あれは、収納の特殊技能かなにかか?」
「多分そうだろうな。俺も初めて見たぜ。」
すぐに周りの者たちは目の前で起こった現象が何によるものかを考察し始める。
そしてそれは、収納系の特殊技能だろうと結論付けている。
収納はかなりレアであるけど使用できる者はそこそこいるからそう判断したのだろう。
しかしそれは当たらずとも遠からずな意見だ。
私は収納は使えない。だから黒竜は別次元に隔離したわけではない。
そのため先ほど消え去った竜は現在はもう存在していない。
しかし完全に消滅したわけではない。
その証拠に・・・
先ほどまで無かったカードの束が、私の手には握られていた。
この話はスマホで書いたものですが、いざやってみるとパソコンに比べ結構しんどいですね。
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