第76話 飛来する植物、大罪殺し
あの日、大地の精霊と戦い敗れた後、僕たちがどうなったのか?その答えは、一目瞭然だ。
その体は、1つの植物のようなものになっていた。
大地の精霊と戦い、敗れたため、その加護を得ることはできなかったが、彼はその代わりという風に僕たちの体を植物のものへと変えた。
初めは、彼に立ち向かった報いを受けたのだと思ったのだが、それは間違いだった。いや、間違いではないのかもしれないが、今回の僕たちにとっては都合のいいものだった。
僕は自分の体を確かめるように動かす。
その体はいつもと変わらないように、それどころかいつもより軽いように感じられる。
ここまでこの体をうまく動かすことができるようになったのも、ここ1週間の特訓のたまものだろう。
そう、この体はうまく動かすことさえできれば、通常の人間のものより身体能力が高いのだ。これはもしかすると、僕たちの事情を知った大地の精霊からの贈り物なのかもしれない。そう思うようになっていた。
「さて、そろそろ街に戻ったほうがよさそうですね。」
ルークさんが遠くを見ながらそう言った。その視線の先は街のほうを向いていた。
ここからそちらを見ても街の状況なんてわかるはずもないのだが、僕もつられるようにしてそっちの方向に目と意識を向ける。
すると――――――――なぜか街のほうが騒がしい・・・ような気がした。
このままのんびりしていてはいけないような・・・そんな感じだ。
僕はマイペースにこちらを見ている大地の精霊の方向を反射的に見た。そこには変わらず座ってこっちを見て居る彼の姿。
そして彼は、
「ん?お前さんたちの街はもうすでに襲撃を受けておるのぉ・・・」
といった。僕の感じた気配は、間違いではなかったらしい。それを聞いた僕には、さらなる焦りが走る。
それはルークさんも同じだったらしい。
彼はいつものような優しそうな笑みを浮かべながらも、その額には冷や汗せが伝っているように見える。
僕たちの焦りを感じたのだろう。そこに大地の精霊から救いの手が差し伸べられた。
「なにやら急いでおるようじゃの?よし、わしが街まで速攻で飛ばしてやろう。」
はっきりとした物言いで彼はそう言った。僕たちはその提案にすぐに飛びついた。
「本当ですか!?よろしくお願いします。」
「早く街までいかなければならないんです!!」
本当に、この精霊には助けられてばかりだな、そう思いながら僕は願った。
すると―――――僕たちの体がその巨体に鷲掴みにされる。
そして、
「分かったわい。よし、じゃあいくぞ?」
僕たちは大地の精霊によって空中に放り投げられた。
――――ええええええええええええ!?確かに飛ばしてやるって言ったけど、そういうこと!?
僕たちは人形のように、街に向かって投げ飛ばされた。
◇
「・・・ということがあってですね。」
空中から飛んできた物体、それは着地して状況を確認するとすぐに私に向かって今まであったことを話した。
その言葉が正しいのなら、今私の目の前にいるのは、ルークとダインということになる。本人がそう言っているのだから、正しいのだろうが、木の人形さながらの姿になった彼らの姿を見るとあまり認めたくないような気持ちもある。
「あなたたち、その体は元に戻らないのかしら?」
私はその気持ちから、そう聞いてしまった。
もし、戻れないなら彼らに現実を突きつけるだけになるのに―――――――、
「あ、割と普通に戻れますよ?耐久力が上がるから表面に植物面を出しているだけで・・」
「そうですよ、ほら。」
ルークが説明し、ダインが実践して見せる。彼らの言葉の通り、ダインの姿は元のものと同じようなものに戻っていた。少しだけ植物っぽさが残っているような気がするが、それは誤差の範囲だろう。
「あ、そうなのね、これをクレアが見たら悲しむと思ったけど、それなら問題なさそうね。」
それならいい、と私は納得する。
確かに、私にとってこの戦いはかなり重要なものだが、彼らが後戻りできなくなるほど体を張る必要はないのだ。
むしろ、そうされてしまっては私の心情的に思うところがありそうだったからだ。
「あはははははははは・・・まさかこんな結末になるとはね。全く、『強欲殺し』はいつも肝心なところでしくじるなあ。」
私たちの会話が一通り終わったころ、上で私たちの戦いを眺めていたルーフィルが笑い声をあげる。
その笑い声でさえも、私に苛立ちを覚えさせる。しかし、今回は流すことができないことを言っていたので、その気持ちをぐっと抑えた。
今、彼は先ほどの魔獣1号のことを、『強欲殺し』といっていた。それはどういうことだろうか?
「強欲殺し?さっきの魔獣のことかしら?キメラだということといい、あなたは何をやっているの?」
私は直接、当人に聞いた。
すると彼は、楽しそうに笑い、そして話す。
「簡単な話さ。大罪系の称号は世界に一人しか持つことはできないんだろう?それなら、大罪系をすべて手に入れるためには、大罪系を持っている者を殺してしまえばいい。その上で、取得条件を満たしてやればいいのさ。」
両手を大きく広げ、これが我が意だという風に、誇らしげに叫ぶ。
彼の目的は、すべての大罪系の称号を手にすること、その言葉が正しいのなら、そういうことになる。その為に、大罪を倒すための生き物を作って・・・
「ちなみに、その魔獣―――強欲殺しには命を持たないものからの影響をすべて無効化する能力があったんだけど・・・まさか空から植物が落ちてくるなんてね・・・予想外だよ。」
壊れてしまった道具に、思い入れなどないのだろう。彼はネタ晴らしをするかのように、先ほど絶命してしまった魔獣の能力を暴露する。
そのおかげで、先ほどまでの異常な防御力に合点がいった。
要するに、私が武器を使って攻撃を仕掛けていたのがいけなかったのだろう。【強欲】の称号持ちはその能力の特性から、大量のアイテムを持っている。
それを使って戦うのが【強欲】の戦い方なのだから、確かに、強欲殺しと呼ばれるのにも納得がいく。
――――そういえば、この場所にはあと2体の魔獣がやってきていた。
私はルーフィルの言葉を聞いてそのことを思い出した。ということは今倒されたのも合わせて合計3体・・・・この街にいる大罪は私とヴェルとレンちゃんの3人・・・・
ヴェルは今現在どこにいるのかわからないが、レンちゃんのいる場所は見る人が見れば一目瞭然、そう、街の中央だ。
思えば、先ほどの魔獣の一匹、ノーストリアと戦っていたほうはそちらに向かっていたように感じられる。
・・・・・・・・これは――――
「ダイン、ルーク、少しの間だけそいつを抑えておいて!!私はレンちゃんのほうを助けてくるわ!!」
それに気づいた私はこの場を彼らに任せて一目散に走り出した。




