第69話 森の中と今回の目的
「さて、僕たちも魔法使い組と同じように自己強化に励むといいましたが、普通に訓練などしても付け焼刃、ここは装備を整えて強化を図るほうが、効率的で現実的でしょう。」
街についたとたん、ルークさんはそう言った。
それもそうだ。敵が来るのは情報が正しければあと6日後だ。そんな短時間で訓練したところで、たいして効果はないだろう。
「はい!わかりました!!でも・・・そんなにいい装備が手に入る場所ってあるんですか?」
この街の装備は悪いというわけではないが、今の自分の装備とさほど性能は変わりない。
それに、先の戦いで武器を失ったというものは多いため、今現在この街で装備を整えるの自体は困難を極めるだろう。
だが、ルークさんが何も考えずにそんなことを言い出すとは思えない。何かいい装備を手に入れる手段にもう宛があるのだろう。
僕はそう思い質問した。
「はい、ありますよ。そこへ今から案内しますね。」
どうやらあるみたいだ。
ルークさんはそういうと、街の逆側に向かって歩き始めた。
町中の者には目もくれず、ただただ前に向かって歩きつづけた。まるで、街にはようがないといったそんな感じがある歩き方だった。
そしてついに、街の外までやってきた。
本当に、街に用事はなかったのだろう。
丁度、進行方向にあったから通っただけといった様子だ。
「さて、目的地はここから少し行ったところにある森の中です。」
街から出たところで、ルークさんはそう言った。
――――森の中?装備調達だよな?
何故森へ向かうのか、そこでどんな装備を手に入れるのか、などの疑問はあったが、それは口にはしなかった。
あまり聞きすぎてもいいことはない。何か考えがあるのは明白だから、それに従い続けたほうが考えなくていいだけ楽だと思ったからだ。
ルークさんは宣言通り、近くの森の前で止まった。
そしてゆっくりと、出発前にイシュルさんから受け取っていた剣を抜いている。
「あ、いつ何が来てもいいように準備はしておいたほうがいいですよ。」
彼は思い出したかのようにそう言った。
その言葉に慌てたように僕も左右に一つずつ下げている短剣を手に持ち、構える。
これから何が起こるというのだろうか?
いや、森に入るのだから、奇襲を警戒するのは当たり前か。
そう納得しながら、剣を抜き森の中に入っていくルークさんの後を追った。
僕たちは少しずつ、前に進んでいく。
木が多く視界が悪いため、幾度となく魔物の襲撃を受けたが、それでもルークさんにとってはそんなことは問題にならないらしい。
明らかに認識の範囲外からやってきたと思われる魔物でさえも、気が付いたときはもうすでに切り裂かれていたのだ。
ルークさんの先導もあってか、僕たちは何も問題もなく進みことができている。
しかし森は広い。
目的地はまだ先らしく、いまだにルークさんは止まる様子はない。
確かに、魔物はほぼすべて彼のほうに行き、僕は基本的にはついていっているだけなのだが、長時間の歩行と、歩きなれない森の中ということもあって体力が削られていく。
3時間ほど、森の中を直進し続けたころだろうか?
「これって、あとどれくらいで目的地に着くんですか?というか、こんな森の中に何があるのです?」
僕はついに根を上げて聞いてしまう。
これ以上は、目的を知らずには続けることはできない。
「目的地はここからあと30分くらいいったところです。目的については着いてからのお楽しみということで・・・」
彼はもったいぶるように言った。目的を知らされないのには不満があったが、もうすぐ目的地に着くとなれば早期になることではなかった。
僕は彼に続くように歩き続ける。
あと少しだと分かると、疲れ切った頭も冷静に働いた。
僕はその頭で、今の状況を確認する。
気づけば、初めのころは散発的に襲い掛かってきた魔物はもう見なくなっている。
これは、森の奥に何かがあるということだろうか?
それをわかっているのだろうか、ルークさんはいつの間にか剣を鞘に納めているのにも気が付く。
やはりこの場所は、魔物が出てこないのだろう。
それに気づいた僕は、魔物が出てこない理由を考える。
どうせ歩いている間はやることがないのだ。それならば、考え事くらいはしてもいいと思った。
魔物が出てこない場所はいくつか存在する。
まず一つ目は魔素といわれる物質が少ない場所らしい。
魔物の体は魔素で動いているため、それが少ないと活動ができないのだとか。
そして二つ目、その場所を縄張りとする強力な生き物がいる場合だ。
この場合は魔物の数が極端に少ないため、遭遇自体しないという話だ。
魔物も一応は生物であるから、自分の命が危なくなるような相手には基本的には襲い掛かったりしない。
例外があるとするならば、一見弱そうに見える人間種が相手の時くらいだ。
だが、この可能性はないだろう。
なにせ、ルークさんは剣をしまったのだ。そんな強力な魔物がいるかもしれない場所でそんな愚を犯すはずがない。
僕はこの可能性を脳内から切り捨てた。
すると、初めの魔素が少ないほうか?とも思ったりしたが、森が深くなるまでは魔物が襲い掛かってきたのだ。
魔素は空気のような気体と似た性質を持つといわれているから、森の中央だけ魔素が少ないということはあり得ないだろう。
それならば、ほかにどのような可能性があるだろうか?
僕がそう次の可能性を出そうと考えていた時、急にルークさんが立ち止まった。
そして、
「あ、ここだな。」
と、そう口にする。
彼が立ち止まった先を見ると、そこは広場になっていた。
木々が生い茂る森ではあるが、なぜかその場所にだけは入らないように、そう思われるような光景がそこにはあったのだ。
そして、その広場の中央には、寝転がってくつろいでいる。大きな人影が確認できたのだった。
 




