第68話 竜との決着そして帰投
私の魔法は、あっさりとその竜の体に命中した。
相手が背を向けて走っていたため、狙っていた体の中央に当てることはできなかったが、見事に竜の足に直撃した。
そして着弾点が凍り付く。
初めはミスをしたかと思ったが、走り去ろうとしている竜の足元を凍らせることに成功しているところを見ると、こちらのほうがよかったのかもしれない。
私の魔法が起こした結果を見ながら私は満足する。
私の魔法を受け、とんでいった弾丸を回収することができないと思ったのだろう。
その竜は怒り狂った声をあげながら、こちらを振り向いた。
しかし―――
「サンダー――!!」
振り向いたその顔にマナリア先生の強力な雷撃がたたきつけられる。
顔面にその威力の魔法を受けたからだろう。その体を大きく震わせながら、叫び声をあげる。
初めのような規則的な、偽装のようなものではなく、本気のそれだ。
私たちの魔法はちゃんと聞いているみたいだ。
そのことに安心した私は再び魔法を放つ準備をする。
あの竜の足元は凍り付いてこれ以上はこちらには来れずに、こちらの攻撃はこの位置からでも十分な効果が発揮される。
そんな私たちの勝負がついたのは、そう遠くはなかった。
元々、あの竜は遠距離戦しかできなかったのだろう。
その状況になってからは、こちらの攻撃を受けるだけで、一切反撃をしようとはしなかった。
◇
その竜は私たちの猛攻を耐え続けはしたが、終わることのないその攻撃に終ぞは倒れ去ってしまった。
ピクリとも動かないことから、絶命してしまったのだろう。
「やりましたね。マナリア先生!!」
「はい!!ですが、どうやってこれを持ち帰りましょう?」
「ああ、それは俺が持って帰るから、心配しなくてもいいぞ。もとより、お前たちでは竜を倒せても持って帰れないと思ったから来てやったんだしな。」
そこでいつの間にか私たちの近くに来ていたトロイヤがそう話しかけてくる。
この戦闘中、どこにいたんだろうか?思えば、彼は竜の攻撃対象から外れていたような気がする。
そして彼は死体となった竜を軽々と持ち上げる。
鱗を脱ぎ去って少しは小さくなっているといっても、その竜はかなりの巨体だ。
それを軽々と持ち上げる彼はいったい何者なのだろうか?
思えば、この山の内部に入る際に、彼は山を砕いていたわね。
私はそれ以上考えることをやめる。
どうせ、考えても答えは出ないことなのだ。それならば、考えるだけ無駄ということだろう。
「そういえば、出口はどこなんですか?見た感じそれっぽいものは見えないですけど?」
気になったのだろう。マナリア先生がトロイヤに向かってそう聞いている。
それを聞いた私も当たりを見渡してみるが、この空間から別の場所に行けそうなところは、先ほどのように竜が入ってきたような穴しかない。
もしかして、その先にあるのだろうか?しかしその予想は外れていたみたいだ。
「いいや?そこら辺から普通に出れるぞ?」
そう言ったトロイヤは、担いでいた竜の死体を無造作に壁に向かってたたきつけた。
何をしているんだろう・・・
私はその行動にもう突っ込む気にすらなれない。
というか、大体予想はついていた。壁を壊して出るつもりだ。
そんなことをしたら、この山がいつかは崩壊してしまうのではないかという疑問はあったが、彼はこの場所を普段から使っているという風なことを最初の段階で言っていた。
それなのにどこにもこのような穴が開いていないということは、放っておけばそのうち誰かがふさぐのだろう。
それよりも思ったことは、そんな風に素材を扱って大丈夫なのかということだけだった。
「さあ、外に出るぞ。早く帰ってこれを仕上げないといけないからな。」
トロイヤは元気いっぱいといった様子で私たちに声をかけ、あけた穴の方向に歩いていく。
私も何も言わずにそれに続いた。
色々あって疲れているのだ。早く帰るということには賛成だ。
「え?えええええええええええ!?」
まだ元気が有り余っているのだろう。マナリア先生が驚いたような大声を上げながら、トロイヤのほうを見ている。
あれだけの戦いの後に、それだけ体力が残っているなんて、やっぱり先生はすごいですね。
私は思い体を引きずりながら、トロイヤの後に続くように街まで戻ったのだった。
◇
トロイヤの魔道具屋についたとき、違和感を覚えた。
その理由は明白だった。店の扉の鍵が開いていたのだ。確かに、出発前に鍵は閉めたはず、トロイヤさんはそう口にしている。
強盗でも入ったのだろうか?
私たちは疑問に思いながらも、店の扉を開く。
―――――ギギギギギギギ・・・・
重厚感のある。さび付いたような音が聞こえる。かなり重い金属の扉が開く音だ。
普通の店にはこんなものは使われていないが、トロイヤ曰く、普通の扉は自分が使うとすぐに壊れてしまうらしい。
初日にそれを聞いたときは、何を言っているのか理解ができなかったが、あの異常な力を見せつけられた今では、それももっともだろうと思えた。
そんな人間が経営する店に押し入ったのだ。
これは入ってしまった強盗のほうが気の毒だ。そう思いながら、私は彼を盾にするように中の様子を確認する。
店の中は荒れている様子はなかった。
それどころか、何かがとられたような形跡もない。それならなぜ、鍵が開いていたのだろうか?
単なる閉め忘れではないようだし・・・
私の中でその疑問が浮かび上がった時、店の奥から何者かがこちらに向かってくるような足音が聞こえる。
コツ、、コツ、、
足音から、その体が軽めの人間だろうという印象を受ける。
これなら、殴り合いになってもあるいは何とかなるかもしれない。
コツ、、コツ、、
その足音は徐々に大きくなっていく。そして、店とその奥を隔てる一枚の扉の前で止まった。
ギィィィィ・・・
扉がゆっくりと開かれる。それに合わせに私は何があってもいいように身構えた。
「え!?」
そんな間抜けのような声を出したのは誰だっただろうか?
自分のような気もするし、そうでないような気もする。しかしそんなことは別に気にならなかった。
扉の向こうにいた人物は、見覚えのある人だった。
そしてその人物は私たちを見て、口にする。
「ああ、やっと帰ってきたのね。全く、待ちくたびれたわ。早速、仕事を頼みたいのだけれど・・」
その人は、いつもと変わらないような口ぶりで、要件を口にした。




