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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第4章 始まりの戦い
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第66話 焦りはミスを生む

今日は短めです。

鱗がすべて剥がれ落ちたそいつの姿は、話に聞いていたどの竜とも違っていた。

全体的には普通の竜とは何ら変わりがないのだが、ひとつだけ大きく異なっている部分がある。


それは両翼の先についている筒のような物体だ。

一見ただの竜だが、その筒がとんでもない違和感を発している。


遠目からでもわかる巨体だったその体は、鱗が剥がれ落ちたことによりかなり小さくなっている。

というか、鱗がはがれたというよりは、鎧を脱いだかのようだった。


しかし、その竜から発せられる威圧感は増しているかのように感じられた。

それを見たマナリア先生は焦ったかのように魔法を発動させる。早さ重視の自動発動型の魔法だ。


水晶の槍(クリスタルランス)!!」

先ほどと同様の魔法だが、鱗の鎧を脱ぎ去った今なら、当たればただでは済まないだろう。

すると、その竜は飛んでくる水晶の槍を一瞥したかと思うと、翼についている筒の一方を飛んでくる水晶に向けた。

そしてその筒から、無数の炎の弾が吐き出される。


マナリア先生の水晶の槍はその炎によって叩き落される。

それどころか、その無数の炎の弾はその勢いのまま、私たちのほうへ迫ってきている。


私たちはとっさにその場から飛びのく。

数秒後、先ほどまで私たちがいた位置に、その炎の弾が着弾した。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!


固いものを削り取るかのような爆音がその場に響き渡る。

その場から土煙が舞い上がり、少し後に晴れる。


着弾点には、大きな穴が開いていた。

あのままあそこにいれば、私たちは吹き飛んでいただろう。あれは炎の攻撃に見えて実際は物理攻撃に近いものがある。

私は炎の弾がたたきつけられた地面を見ながらそう考察する。

それならば、私の魔法での防御は難しいかもしれない。単純な炎属性の攻撃なら、たとえ竜の息吹であっても防げる自信がある私だが、物理攻撃まで防げるかといわれると首をひねるしかない現状だ。


私はあの攻撃を正面から受けないように戦うことを心掛ける。


「先生!!どうしますか!?」

私はこの場で最も信頼のおける人物に向けて、指示を仰ぐ。

彼女なら、もうすでにあの竜に通じる手を思いついているかもしれない。そう思ったからだ。

しかし、いい返事は返ってこない。


「まだ情報が足りません。今は安全に、この距離を保ちながら様子を見ましょう。幸い、あの竜は遠距離攻撃を得意としているようであそこから近づいてくる様子はありません。」

要するに、何も案はないから思いつくまで待機ということだ。


彼女はそれでもいいかもしれない。だが、未熟者である私としては、あの攻撃を長時間堪え切れる気はしない。こうしている間にも、あの竜はこちらに炎の弾を飛ばし始めているのだ。

私はその場にいるもう一人にも意見を仰ぐことにする。


「トロイヤさん!!あれ、何とか弱点とかないんですか!?」

彼はあの竜のことを知っていた。それならば、弱点の一つも知っているはずだ。そう思った、しかし、現実は非情だった。

「俺が教えたら意味がないだろう?自分で何か見つけろ!!」

彼は協力するつもりは全くないみたいだ。

戦闘に参加するどころか、情報のひとつもよこしはしない。徹底して静観を決め込むつもりだ。


考えてみれば八方ふさがりのこの状況、私はとても焦っていた。


このまま、一向に打開策が浮かばなかったらどうしよう。


このまま、戦い続けて新手などが来てしまったらどうしよう。


このまま、何もできなかったらどうしよう。


そしてこのまま、


――――――死んでしまったらどうしよう。


最近、信頼できる仲間を一人失ったばかりだ。その為、死というものを過剰に恐れていたのだ。

その為、私はことを急いてしまう。


私はひとり、あの竜に向かって走った。

距離はおよそ100メートル、大体15秒もあれば十分に詰められる距離だ。


先ほどの攻撃を見ている限り、あの竜の炎の弾は軌道が直線的で読みやすい。

あの筒の延長線上にいさえしなければ、当たることはないだろう。


私が走ってくることを確認した竜は、私のほうに向けてその翼についている筒を向けてくる。

そして、


―――――今だ!!


私は大きく横に飛びのいた。私の予想が正しければ、この瞬間に炎の弾を打ち出す。

そう思い、その射線上から離れるように跳んだのだ。

そして、私は先ほどまで自分がいた場所を見る。


―――え?

そこで目を疑ってしまう。


見ても私が先ほどまでいた場所には、何も通過しなかったからだ。


私はとっさに竜の方向を見る。

するとその竜は、醜悪な笑みを浮かべたような顔をしながら、翼の筒を私のほうに向けているのだった。


そしてその筒からは、今にも炎が発射されるかのように、赤い光が漏れ出ていた。

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