第64話 竜の巣の入り方
今回はノーストリア視点です。
状況でわかると思いますが、文章中に明言してはいないので一応ここに記載しておきます。
トロイヤという魔道具屋が竜の巣の存在を教えてくれた後日、私たちは教えてもらった山を登り、その頂上まで登ってきた。1つ予想外のことがあったとすれば、教えてくれた本人自らが道案内をしてくれるということだろう。
頂上は大きなすり鉢状になっている。
そしてその中央には火口が見える。それは今にも吹き出しそうだ。
「ここが・・・竜の巣であってるのよね・・・」
私はその光景をみながら、半ば疑うかのようにそう呟いた。
なぜなら、そこには竜がいなかったからだ。だが、指定された場所もここで間違いない。
私はトロイヤという魔道具屋が嘘をついたのではないかと思い至る。しかし、
「ああ、ぱっと見はそうは見えないが、近くに行ったらすぐにわかるぞ。」
この場所を教えてくれた本人がそういうのだから、間違いはないのだろう。
私は火口をよく見てみる。
しかし、いまだよくわからない。
一緒に来ているマナリア先生も、首をひねっているので、私が悪いわけではないようだ。
そんな私たちの様子はお構いなしに、トロイヤは火口におり始めた。
ちなみに、彼はほぼ普段着も同然の恰好をしている。
普通は、そんな恰好で火山の火口に入ろうものなら、燃え尽きてしまうだろうが、不思議なことにそれは起こらなかった。
「おーい、なにしてんだ?早くいくぞ。」
彼はそう言って私たちに催促をしてくる。
私たちはその言葉を聞いて、小走りになりながら彼のほうに向かう。
そして、
――――――――――熱い・・・
強力な熱をその身に浴びる羽目になる。
かつて、冒険者学校の研修で、同じような場所に来たことがあったが、それとは比べ物にならないほどこの場所は熱かった。
私はとっさに魔法―炎防護を発動させる。
一応、これも炎属性に属する魔法のため、難なく発動でき、熱さを和らげることができた。
だが、それだけだった。
それ以上の効果は見込めない。私の魔法では、ここが限界らしい。
魔法を使ってもなお、真夏の日中並みに熱いのに耐えながら、私はトロイヤを追いかける。
彼はどうやってこの熱さをしのいでいるのだろう?
考えても答えは出ないが、トロイヤはこの熱さを感じないとばかりにすたすたと歩き続けている。
急がなければ、遅れてしまうだろう。
そう思いながら、隣に一緒に歩いているマナリア先生のほうを見る。
彼女もまた、この熱さをものともしないような表情をしていた。
流石は私の魔法の先生だ。
このくらいの熱さなら、簡単に防ぐことができるのだろう。
私は自分の中でマナリア先生の評価を上げながら歩を進める。その首筋には大量の汗が伝っている。
「大丈夫ですか?なんだったら、おぶってあげましょうか?」
私が苦しそうに下りていくからだろう。マナリア先生はそんな提案をしてくる。しかしそれに甘えてはいけない。
これから、激しい戦いが予想されるのだ。
いつも誰かが助けてくれるとは思わないし、思ってはいけない。
それに、人ひとり背負って歩くのは、流石に負担になるだろう。そう思った私は、
「いいえ、何とか大丈夫です。」
その申し出を断る。
服が汗でびしょびしょになっていく感覚があるが、何とか耐えきれそうだ。
見ればトロイヤが足を止めている。
おそらく、あのあたりに竜の巣の入り口か何かがあるのだろう。
私は歩く速度をさらに速める。ゴールはもうすぐなのだ。
そしてようやくたどり着いた。
距離的には、登ってきた時の1割もないはずなのに、疲労感で言えば10倍くらいだ。
「はぁ、はぁ、ここが入り口ですか?」
息を切らしながら私はトロイヤに尋ねる。
「ああそうだ、でもここでそんなに消耗していて大丈夫なのか?竜だって素直に素材をくれるわけじゃないんだぞ?」
彼はその言葉を肯定しながらも、少し意地悪なことを言ってくる。
いや、これは意地悪なんかではなく、私のことを心配しているのだろう。
要するに、引くなら今だと警告してくれているのだ。だけど、ここまで来ておいて引くわけにはいかない。
時間が貴重な今、始めたことを途中でやめて時間を不意にしたとあってはならないからだ。
「大丈夫ですよ。何とか素材を持ち帰って見せますから・・・」
私は少し気弱になりながらも、ここで引く意思はないということを伝える。
その言葉に満足したのだろうか?トロイヤは少しだけ笑みをこぼす。
そして、
「そっちも大丈夫か?」
とマナリア先生のほうに問いかけた。
「はい。教え子がこんなに頑張っているのに、私だけ逃げるなんてできませんから。」
マナリア先生も、当然引かない。このまま竜の巣に入るようだ。
そしてトロイヤは、その言葉を待っていましたと言わんがばかりの表情をする。そして、
「じゃあ、今から竜の巣の入り口を開けるから、お前らなるべく死なないようにな。」
といって拳を握り締める。
――――ん?なにをしているの?
そう疑問を抱いた私に、それを考える時間はなかった。
次の瞬間、トロイヤが握り締めた拳を思いっきり地面にたたきつけたからだ。
ドガン!!
と、あたりに爆発音に近い音が鳴り響く。
それと同時に、私たちがいる場所の足場が盛大に崩れた。
「えええええええええええええええええ!?」
「きゃああああああああああああああああ!?」
マナリア先生は驚いたように、私は突然のことに悲鳴を上げるように叫んだ。
流石に、予想外の行動だった。いきなり地面を砕いて穴をあけるとは思っていなかったのだ。
どうりで、どこから見ても竜の巣なんて見つからないと思ったわけだ。
そんな風に心のどこかで何かを納得しながらも、私たちは空いた穴に真っ逆さまに落ちていく。
このままでは、地面に激突してしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
もし仮に死ななかったとしても、トロイヤの言葉が正しければこの下は竜の巣があるのだ。
落ちた先で瀕死になってしまって戦えなければ、すぐに殺されてしまうだろう。
突然のことに慌てながらも、私は1つの魔法を発動させる。
「炎の翼!!」
炎の翼、その名の通り、炎の翼を自分の背中に作り出すことができる魔法だ。
見た目にそぐわず、長時間空を飛ぶことはできないが、落下速度を緩めるだけならお手の物だ。それに、この魔法は他の属性の同じ魔法と違って上昇が得意だ。
その理由は定かではないが、マナリアさん曰く周りの空気を熱するからではないかとのことだ。
私は落下の速度が急激に落ちたため、落ち着きを取り戻し、下を見た。
目算であと、数10秒ほどで下に到達するだろう。それを確認した私は、今度は周囲の壁を見る。
――――っ!?
そこで私は絶句してしまう。
なぜなら、壁にはところどころに穴が開いており、その一つ一つに、竜のものと思しき瞳が、落下している私を見つめていたからだ。




