第63話 魔法使いたちの準備 1
イルさんから治療費という名目でお小遣いをもらった私たちは、街についたらまず初めにトロイヤさんの店に向かうことにしました。
再び天使が襲撃してくるまで、あまり時間がないので装備を整えるためです。
「そういえば、ノーストリアさんは好きな装備品は何ですか?」
道中、特にやることはないのでそんな会話をしながら進みます。聞いておいたら、注文をする際に役に立つかもしれないからです。
それを聞いた彼女は、少し不思議そうな顔をしながら、
「えっと、特にはないですが、しいて言うならローブですかね?」
と答えてくれました。
それにしても、ローブとは珍しいですね。
確かに、魔法使いの人たちが着る服としてはローブは一般的ですが、それが一番かと聞かれるとみな一様に首を横に振ります。
基本的には魔法使いの人たちは杖や指輪といった、使いやすい装備が好きだからです。
杖がないと戦えない。という魔法使いはいますが、ローブを着ていないと戦えないという魔法使いはいないからでしょう。
ノーストリアさんの返答を聞いた私は、黙ってそんなことを思い起こしてしまいます。
急に私が黙ったことで、少し不安になったのでしょう。いいえ、元々言われてきたのかもしれません。
彼女は少し遠慮しがちに、
「えっと、・・・何かまずかったですか?」
と、こちらを見上げてきます。
おっと、これはいけません。
「いいえ、ただ少し珍しいなぁって思っただけですよ。」
「そうですか、同じ冒険者学校の魔法使いのみんなも同じことを言います。」
「そういえば、ノーストリアさんは冒険者学校の研修でここにきているのでしたね。」
「はい・・・まさかこんなことになるなんて思ってはいませんでしたけど・・・」
話題をすり替えようとしたのですが、失敗してしまったみたいです。
ノーストリアさんは先ほどよりももっと落ち込んだ様子を見せます。
やっぱり、人付き合いというのは難しいですね。
イルさんと話しているときは相手の気持ちがよくわかっている気がしたのですが、今回はそんな感じが全くしません。
多分、イルさんが特別わかりやすい人だったのでしょう。
私はそこまで考えたところで、表情が暗くなっているノーストリアさんをなだめ始めるのでした。
◇
「へぃ、いらっしゃい。」
店に入ると、やる気のなさそうな声が私たちに届きます。
聞き覚えのある声・・・トロイヤさんです。
彼は私を見たとたん、面倒くさそうな顔をして、こちらに話しかけてきます。
「あんた・・・マナリアちゃんだっけ?また来たのか?」
「何ですかその態度は!!もうちょっと接客業ということを頭の中に置いておいたほうがいいんじゃないですか!?」
「いや、それはいいや。それで?今日はなんのようだ?言っておくけど、俺は今遊んでやるほど暇じゃねぇぞ?」
トロイヤさんはこともあろうことか、私たちを遊びに来た暇人扱いします。
これには流石に起こりたくもなりますが、ここは冷静にならなければなりません。彼の言う通り、今は遊んでいる時間なんてないんですから。
「そうでした。今日も魔道具を作ってほしいんですよ。私の分と、彼女の分を。」
私はそう言ってノーストリアさんを指さしました。
彼女は急に自分に目が向けられたので、驚いたのでしょう。目を丸くして「え、は、はい!!」と何に対してかわからない返事をしています。
「へぇ、あんたこの前さんざん金使っといて、まだ残っているのか。それで?今回は何を作るんだ?材料は?」
仕事の依頼を受けたトロイヤさんは、前のようにごねずにこちらの要望を聞こうとします。
しかし、お金はいいとして材料のことは完璧に失念していました。
そういえば、ここは材料は完璧にこちら持ちでしたね。どうしましょうか?
う~ん、
私がそう唸っていると、トロイヤさんはあきれたような声を出します。
「おいおい、流石に材料がなければできるものもできないからな?」
「あの、先ほどから言っている材料、というのは魔道具を作る材料でいいのでしょうか?」
「ああ、でも一定以上の強度がないとダメだぞ?最低でもミスリル、それ未満だと俺が触っただけで壊れちまう。」
「そうですか。それは大変ですね。」
「それで?材料はあるのか?」
う~ん。
これは仕方がありませんね。
早急に素材を集めて戻ってくるほか無いようです。私はそのことを決めてノーストリアさんに向けて話します。
「すみません、ノーストリアさん。材料のことを完全に忘れてたので、今から取りに行きましょう。」
「それはいいんですが・・・ミスリル以上の素材なんてどこでとれるんですか?」
「うっ、それは・・・多分冒険者ギルドで聞けば何とかなるはずです。」
前回のように都合よくクォーツドラゴンが出ているとか、そういうことがあるかもしれません。
流石にあのレベルのものは無理ですが、普通のやつくらいなら何とかなるはずです。
そう思っての発言でしたが、
「あの、マナリアさん・・・昨日見た限りではそんな依頼なかった気がしますが・・・」
その希望は打ち砕かれます。
それは困りましたね。これではせっかくイルさんからお金を受け取っておきながら、何もできないことになってしまいます。
そうやって話し合っている私たちを見ていたトロイヤさんが私たちの話に割って入ります。
「あの、材料を俺が提供することはしないが、俺が普段使っている採取地を使うことならしてもいいぞ?」
思わぬところから救いの手が差し伸べられます。この状況でこの手を取らない理由がありません。
私はすぐに彼に言葉を返します。
「本当ですか!?場所はどこです!?」
少し興奮気味になってしましましが、トロイヤさんはそんなことを気にする様子はなく、場所を教えてくれます。
「えっとな?ここから少しだけ行ったところに山があるんだけどな?そこに竜の巣があるんだよ・・・」
そう話す彼の言葉は、あまり言いたくはなかったのか少し歯切れが悪かったです。




