第61話 傷ついた体とその結果
今回は短いです。
そもそも、前の話の後ろにくっつく予定だったものです。
「全く、私が治さなかったどうするつもりだったんですか?」
目が覚めた私に、初めに投げかけられた言葉がこれである。
どうやら、またマナリアが治療してくれたようだ。彼女には頭が上がらないわね。
まあ、一応ここは魔素の源泉だから死にはしなかったと思うけど、それを言うのは無粋ってもんよね。
「そういえば、あなたが助けてくれるとしか思わなかったから、その場合のことを考えていなかったわね。助けてくれてありがとう。」
私はとぼけるようにマナリアに感謝を述べた。
そしてそのまま立ち上がろうとする。
しかし、
「あ、イルさん。まだ立ち上がったらだめですよ!!」
うまく体に力が入らない。
起き上がりかけた私の体は、そのまま再び倒れることになってしまった。
これは、
「貧血?」
あれだけ血を流したのだ。貧血になっていてもおかしくはない。
私のつぶやきを聞いたマナリアは、申し訳なさそうな声で話しかけてくる。
「はい、お察しの通り、イルさんは現在血液が足りていません。回復魔法は失われた血液は戻らないんですよ。」
彼女のことだ。また、自分のせいだと思っているのだろう。
「そう、まあ気にすることはないわ。」
私はそういうと、再び体を起こそうと試みる。
私が無理して動くつもりだと思ったのだろう。マナリアは私を寝かすために押さえつけようとしてくる。
体に力が入らないはずなのだ。
その状態なら、私は抵抗なく倒れると思ったのだろう。
しかし、彼女に押された私が倒れることはなかった。
「そんなに心配しなくても、私は大丈夫よ。」
半ば私に抱き着いてきているマナリアに、私は軽く抱きしめる。
その腰には、黒く染まった二対の翼が生えてきていた。私の体はそれによって支えられている。
魔力で動くこの翼には、貧血なんてものは関係ないのだ。
「あ、イルさん、それ・・・」
私の正体を初めて知ったのだろう。彼女はそれを見て驚いたような声を上げている。
「そういうことだから、今からすぐにでも準備を始めることにしましょう。」
私は目を丸くしているマナリアの横をすり抜けながら、部屋を出る。
果たして、私が体を張った意味はあったのだろうか?
それを確認するために、私はみんなを探すのであった。
――――――――――――――――――――――――
マナリア以外の人は、全員リビングに集まっていた。
何故勝手に上がり込んでいるかを聞きたいところではあったが、今の状況的にそんな余裕はない。
マナリア曰く、私が寝ていた時間はそこまで長くはなかったらしく、今はあの戦いがあった日の夜中だ。
私が部屋に入ってきたのを見たダインとノーストリアがまず初めに近づいてくる。
彼らの表情は非常に暗い。
「あの、・・・・イルさん・・」
ノーストリアはどういっていいかわからないような感じで、私のほうを上目遣いで見てくる。
そんな中、ダインは、
「イシュルさん、僕はやっぱり、あなたを許せそうにはありませんでした。でも、今回は戦おうと思います。」
とはっきり物申す。
彼は勇者のことは許せないようだが、今回は戦ってくれるみたいだ。
私はそのことに安心する。
これで彼が怒り続けていたら、刺され損だったわ。
私はそう思いながら、彼らのほうを見て一言、大きく宣言するのように言った。
「じゃあ、みんな集まったことだし、天使対策を立てるわよ。」
私たちの心は、この時だけは一つの方向を向いていた。
これで第3章は終わりです。
次からは第4章、対天使編 (仮名)に入ります。




