第58話 協力者?人工魔物
それから約十分、私は戦闘には参加せずに遠くからその戦闘を見続けていた。
ヴェルは何とかしのげてはいるみたいだが、それももう限界が近いように見える。
ミカエラはその間、私のほうを全く気にする様子はない。
ずいぶんな態度だが、今回ばかりはそれに感謝するべきだろう。
そのおかげでようやく準備が整ったのだ。
私はその場で攻撃の構えをとり、一言つぶやいた。
「敏捷強化・・・」
その言葉とともに私は地面をける。
そして次の瞬間には、ミカエラの目の前にたどり着き、そのどてっぱらに向かって拳を振りぬく。
私の拳は狙いたがわず、ミカエラに命中して、その体を大きく吹き飛ばす。
ッチ、うまく流されたか。
それを見た私は心の中で悪態をつく。
私が行ったのはありったけの魔力を注いで効果時間をギリギリまで切り詰めた敏捷強化の魔法だ。
反応などできるはずもないと思っての一撃だったのだが、ミカエラはぎりぎりで後ろに跳ぶことで衝撃をそらすことができたみたいだ。
私が想定していたより、強化率が上がらなかったのも原因でしょうね。
魔力をほぼすべて込めて、かつ時間を2秒まで切り詰めたのだが、ただ単に時間を1秒までに絞った時とあまり強化された感じが変わった気がしなかったからだ。
おそらく、それが中級魔法の限界なのだろう。
これ以上強化率をあげようとするならば、上級の強化魔法が必要みたいね。
私はそこまで考察を終えたところで、ミカエラが吹き飛んだ方向に目を向ける。
強化された膂力、そして最高速度の攻撃、いかにミカエラといえど、その衝撃を受け流すことは難しい。
彼女は腹部を抑えながら、よろよろと立ち上がる。
「あらあら、私としたことが、油断してしましましたね・・・」
苦しそうにしながらも、いつもの態度を崩さない。
それを見た私は一言だけ叫ぶ。
「ヴェル!!」
「わかってる!!」
本来なら、私が行くべきところだが、先ほどの無理な強化のせいだろう。
体がうまく動かないのだ。筋肉のあちこちが痙攣している。
ヴェルは私の意図を読み取ったのだろう。すぐさまミカエラを捕縛しようと飛び出した。
身体能力の上では互角、いやむしろヴェルのほうがうえなのだ。
吹き飛ばされる際に聖槍を手放し、大きな傷を負ったミカエラにヴェルは止められない。
私はこの戦いの勝利を確信して、それを見ていた。
そしてその確信が現実になる。
ミカエラは抵抗を見せたが、その抵抗むなしくヴェルに押さえつけられていしまう。
これで敵の首魁は抑えた。あとは街を襲っている天使をどうにかするだけだが、この街の冒険者が思ったより頑張ってくれているおかげで、それもすぐに終わるだろう。
そう思った時だった。
「あれだけ自信満々に出てきた割には、ずいぶんな格好をしてますね。ミカエラさん。」
聞きなれないとても落ち着いた男の声。音源は・・・・・ヴェルの真上!?
私がそれに気づくと同時、それが落ちてくる。
「おっと、危ない。」
ヴェルは何とか回避したが、抑えていたミカエラが自由になる。
「はあ、助かりましたわ。ルフィールさん。少し油断ししまいまして押さえつけられてしまいましたの。」
「はあ、だからわたしの準備が終わるまで待ってくださいって言いましたよね?」
「仕方ないじゃありませんか。待ちきれなかったのですから。」
自由になったミカエラはルフィールと呼ばれたその男と親しげに会話をしている。
会話の内容から言っても今回の襲撃の関係者だろう。
そしてもう一つ気になることがある。
先ほど、その男がやってきた時から、ヴェルの様子がおかしい。
過去に何か因縁でもあるのだろうか?そう思いながら私は彼に尋ねる。
「ヴェル?そこの男を知っているの?」
ヴェルは答えない。その代わりに当の本人が私に答える。
「いいえ?わたしのほうはそこの男のことは知りませんよ?」
なら、一方的に知っているだけだろか?
そう考えていると、ヴェルが急に怒気を孕んだ声でその男に問いかける。
「貴様の乗っているキマイラがどういうわけか説明してもらおうか。」
確かに、男はキマイラと呼ばれる魔物に乗っていたのだが、それが何か問題なのだろうか?
そのキマイラはかなり混ざりあった状態であったが、ヴェルならば何の問題もなく倒せそうである。
その魔物の強さより、キマイラそのものに対して怒っているみたいだ。
「ええ、わかりました。しかし、先に言っておきますが、これはキマイラではなくキメラですので間違えないよう。」
キメラ?聞いたこともない魔物だけど、なんなのかしら?
その疑問が口から出ていたみたいだ。キメラという魔物に乗るルーフィルが説明を始める。
「キメラというのは基本的にはキマイラとは変わりないのですが、ひとつだけ大きな違いがあるんですよ。なんだと思います?」
私が答えるよりも早くルーフィルは答えを言う。
よほど説明するのが好きなのだろう。
「そう、もうお察しの通りです。キメラはキマイラと違い、人工の生き物なのですよ!!」
その言葉は少し興奮気味である。
しかしそんなことを気にすることができないものがいる。
ヴェルだ。
彼はその言葉を聞くと同時に、全力で走り、ルーフィルに向かって殴り掛かっている。
その速度はいつもより数割増しで早い気がする。
だが、その攻撃は直線的過ぎて、ルーフィルが乗っていたキメラに防がれてしまう。
「はあ、あなたといいミカエラといい、皆さん短期ですね。」
少しあきれたようにルーフィルが言いそのまま私たちに背中を向けて話始める。
「まあ、今回はミカエラさんが怪我してしまいましたし、ここいらで引くとしましょう。」
目の前で殺意を向けられているとは思えない行動だ。
彼は自分が乗っているキメラにミカエラを乗せてそのまま空へと逃げようとする。
「待て!!」
ヴェルがそれを許すまいと追いすがるが、飛行手段を持たない彼に追いかけるすべはない。
悔しそうに空を見る彼に、上空から一言だけ声をかけられる。
「あ、次は1週間後に来ますので、よろしくお願いしますね。」
それを聞いたヴェルは、空に向かって叫ぶ。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
彼は当分の間、空を見上げて叫び続けたのだった。
よかったらこちらもどうぞ。こちらの作品とは違って明るめの話です。
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