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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第3章 異世界勇者到来
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第57話 敵の首魁

街の中央のレンちゃんのダンジョン、その前にヴェルはいた。


ヴェルは大きな翼をはためかせている敵と対峙している。

遠くからでもはっきりとわかる神々しい雰囲気。

間違いない、あれが今回の首謀者だろう。


私はその者が戦う様子を足を止めて遠くから注視する。


ヴェルが素手で戦っているのに対して、そいつはその手に神聖さを感じさせる槍を持っている。

そしてそれをすさまじい技量でふるっている。

対するヴェルはそれをギリギリのところで回避し続けている。

今のところ、やられる様子はないが、このままではじり貧だろう。


私は加勢するべく、止めていた足を再び動かす。

あのヴェルが苦戦している相手に、自分が何ができるかはわからなかったが、行かないよりはましだろうと思ったからだ。


「ヴェル!!助けに来たわよ!!」


「イルか!?助かる!ちょっと手伝ってくれ!!」


最低限の挨拶だけを済ませて私は敵を見据えて構える。そして間近でその敵を見て、私は硬直してしまう。


「あら?やっとお目当ての相手が登場したわ。遅かったじゃない、イシュルさん」


そいつは私を見てそう声を上げた。

やっぱり、今回の天使の襲撃の原因は私だったみたいだ。それにしても、


「まさか、あなたが来ているとは思わなかったわ。」


「そう?神器は天界の至宝なのよ?私が来ても何ら不思議ではないわ。」


私の目の前にいる女の名前はミカエラ。熾天使の中で最上位の存在。

言ってしまえば、天界のトップだ。

そんなやつが出貼ってくるなんて、いよいよ本気ってわけかしら?


「それで神器を取り返しに来たってわけね。意外と遅かったじゃない。」

この街に来て軽くひと月は経過していたと思うのだが、その間に天使が来たことは一度もなかった。


まさか、ここにいるのがばれていないという可能性がないとは言えなかったが、ここに向けられている戦力を見る限りそれはなかったのだろう。


「あら?まるでこの街に来ることが分かっていたみたいね。理由を聞かせてもらっても?」


「自分で種をまいておいてよく言うわ。あなた、魔族の振りをして聖痕をつけて回っていたのでしょう?」


「あらあら、それが分かっていたのにそれを治療してあげたのね。あなたったら、最高にやさしいわ。」


聖痕、そう、私がここにいることがばれていると思っていた理由だ。

クレアドーラが受けていたのは呪いなんかではなかった。天使の、それも熾天使以上の存在が扱うことのできる聖痕だったのだ。


聖痕というのは基本的なルールは呪いと何ら変わりないが、ひとつだけ決定的に違うことがある。

それは聖痕が回復魔法の一種ということだ。

これでは治療もなにも普通はあったものではない。

これを治そうと思えば、それこそ神器の力を借りるしかないのだ。


ミカエラはそれを各地に振りまいた。そしてそれが消えた場所に私がいるということだろう。

おそらく、ほかにも何かやっているだろうが、今回はこれに引っかかったということね。


それにしても、さすがに天界のトップがやってくるなんて想定外よ。ただの熾天使なら、ヴェルがいれば何とかなると思っていたのだけど、見通しが甘かったようね。


「そんなことはどうでもいいわ。で?あなたたちはどうすれば引いてくれるの?」


「あらあら、そんなこと、言わなくてもあなたならわかるでしょう?」


まあ、神器を返上しろということだろうとは思う。だが、それはできない。

これは私のものだ。

一度私のものになったからには、お前らに帰してやる義理はない。

しかし、このままでは何も関係のない人が傷つくのもまた、事実だろう。


そうなれば答えは一つだ。


「そう、あなたを倒せば引いてくれるのね。」


私はこぶしを握り締めてミカエラの距離を一足で詰め、そのまま殴り掛かった。

それと同時にヴェルもミカエラに攻撃を仕掛ける。


「あらあら、そこまで馬鹿になっていらっしゃったのね。」


私たちの攻撃はミカエラには届かなかった。

彼女はその場からほとんど動くことなく、攻撃をしのぎ切ったのだ。

そしてこちらの攻撃がやんだ瞬間に槍で突いてくる。

なんとかそれは躱すことができたが、今の一撃で相手の技量が嫌というほどわかる。


天界のトップは伊達じゃないようだ。


しかし、今の攻防でひとつ気になる点がある。

それは私のことはほとんどいないも同然の扱いをしていたことだ。


一見、二人を同様に対処したように見えるが、その実私のほうには意識の一割程度しかさかれてはいなかった。

さすがにプライドは傷つくけど、それは当然の行動だろう。


私より、ヴェルのほうが危険だということは、ミカエラはちゃんと理解しているのだ。

それなら、相手が私を甘く見ている間に一気に勝負を決めるべきね。

私はそう思い、聖槍のカードを取り出し、手の中に隠す。


そして、もう一度ミカエラに向かって攻撃を仕掛ける。


彼女は今度はこちらを見すらしない。それだけの自信があるのだろう。


私は拳で殴りつけるふりをしながら、手の中のカードを実体化させる。そして、それは真っすぐに彼女のほうに向かっていく。


ーーーとった。


そう思ったが、それはあっさりと躱されてしまう。そして、


「これは聖槍ね。ありがとう、返してくれて。」


そう言ったミカエラに横から掴まれ、そのまま引っ張られる。

籠手(ガントレット)の力で膂力が強化されているにも関わらず、私の力はミカエラのそれにはかなわない。

その結果、私の聖槍は彼女に奪われてしまう。


「ああ、やっぱり、こっちのほうがいいわね。」


私の手から聖槍を奪ったミカエラはそういうと、今まで持っていた槍を手放して聖槍のほうを構える。

これでは、敵に塩を送ってしまっただけだ。


私は先ほどまでの自分の行動の浅はかさを恨む。

ただでさえ、かないそうにない相手がさらに強化される結果になったのだ。状況は絶望的だといってもいいだろう。


そんな私の心のうちなど関係ないといわんがばかりに、ミカエラは試すように聖槍をふるう。

先ほどまでと技量は変わらないが、それの威力は段違いだ。


少し薙ぐようにしただけだが、突風が走る。

私が使った時はそんなことは起こらなかったため、あれが聖槍の真の力なのだろう。

おそらく、ミカエラが使えばあのクォーツドラゴンも簡単に貫いてしまいそうだ。


そして彼女は少しずつ近づいてくる。

私はとっさに次なる手を考えようと試みる。


指輪を使って少しでも動きを封じる?


いや、指輪の防御は強力だが、一定以上の攻撃力の前には焼け石に水だ。


距離を保ちながら武器を投げて戦う?


これもだめだ、その程度の攻撃では、あの防御を抜くことはできない。


籠手(ガントレット)で攻撃を防いでいる間にヴェルに攻撃してもらう?


これも論外だ。完全体クォーツドラゴンを貫けそうな攻撃を、それから作られた防具で防げるわけがないだろう。


じゃあーーーーーーーーーー逃げる?


普通なら、これが正解だろう。

しかし、今回はヴェルがいる。おそらく、私が逃げても彼が戦い続けるだろう。

先ほどまででも、苦戦していたのだ。彼はやられてしまってまた、同じことがおこるだけだろう。


ミカエラに対する対策案が出ないまま、彼女は目の前に迫る。

そして、そのまま聖槍をこちらへ突き出してくる。


一応、避けられないことはない。それは先の攻防でわかっていたことだ。

しかし、このままではいずれやられてしまうだろう。


結局、私が来る前と状況は変わっていない。


むしろ悪くしてしまっているさえある。私はミカエラの攻撃をよけながら、大きく後ろに跳んだ。


そして、すぐに彼女に向かって構える。すぐに追撃されるだろうと思ったからだ。

しかし、それは訪れない。


それもそのはずだ、彼女は私一人を相手にしているわけではない。そして、私は彼女に比べて圧倒的に弱い。近くに強者がいるのだから、そちらを優先すべきであろう。

どうせ、私が加わったところでほとんど変わりはないのだから。


先ほどもだったが、その行動が私のプライドを再び大きく傷つける。

だが、冷静さを欠いてはいけない。それは先ほど学んだことだ。


私はこの状況で何ができるかを考え、そして一つだけ答えを見つけ、すぐに準備に取り掛かる。


ヴェルには悪いけど、少しの間耐えてもらうわよ。


今現在、必死に戦っている男に対して謝罪の言葉を脳内で言った私は、あることに意識を集中させるのだった。

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