第56話 許されない行為
間に合わなかった。
それは私がそれを見た瞬間に理解できたことだ。
ノーストリアから街が天使の襲撃を受けていると聞いて全力で走ってきたが、だめだったみたいだ。
私のよく知る顔、天使の部隊長のアテルムの足元には、ピクリとも動かなくなった勇者が倒れていた。
「おやおや?今更来てどうしたのですか?」
アテルムがこちらに向かって言葉を飛ばす。間に合わなかった私を責めるような言い方だ。
「別に?天使のくせに人を襲う輩がいると聞いたから、成敗するために来ただけよ」
これは嘘だ。
天使は人間の味方だ。それが人間を襲うなんて普通はあり得ない。
あるとするならば、悪いことをした人に罰を与えるくらいだ。
それなのに、この惨劇、原因はおそらく私にあるのだろう。そう思ったから出てきたのだ。
「そうですか。あなたは堕天しようが、天使であるつもりなのですね」
皮肉じみた言い方だ。
だが、私にそれをどうこう言う資格はない。しかし、
「まあ、どうでもいいけどあなたは倒させてもらうわね。」
こいつは許してはいけない。私の本能がそう告げている。
こいつは、アテルムはこのままにしておけばたくさんの人を殺すだろう。
いや、私が出てきたことを大々的に宣伝すれば、天使の行動を止めることはできるかもしれない。
私はアテルムに向かって走り出す。
向こうも手に持っている剣を正面に構えている。
相手は自分と同等の熾天使だ。普通にやったら五分五分のはずだ。
「な!?」
しかし、現在の私たちの間には隔絶された実力差があった。私の手はアテルムの体を抉る。
簡単な話だ。
私は今、身体を強化する魔道具を腕に装着しており、対する相手は勇者の攻撃のせいか翼のひとつが大きく傷ついていた。
こちらは通常より強くなっており、相手は通常より弱くなっている。
そんな私たちの勝負の決着は一瞬だった。
私は驚いているアテルムの体向かって再度腕を振るう。
我ながら野蛮な一撃だが、それは見事に相手の腹部を貫いた。
「がはっ、な、何故?」
「何故、言われても、、あなたもこうやってそこのやつを殺したのでしょう?」
そういうことが聞きたいのではないだろう。そんなことは重々承知だ。
しかし、私はそう答える。
自分が犯した罪を自覚させるために、そしてそれを後悔させるように。
勇者の体は傷だらけだったが、その中でもひときわ大きな傷が二つあった。
一つ目は心臓の真上、そしてもう一つは腹部だ。
おそらく、先に腹部のほうをやられたのだろう。
胸のほうの傷からはほとんど血が流れた様子はなかった。
こいつにも同じようにやるのが一番いいだろう。
私は腹部を貫いていた腕を強引に引き抜く。
「ッチ、分が悪いですね・・・」
腹部を赤く染めながらも、アテルムはそう口にする。
まだ、死ぬ様子はない。腐っても熾天使だ、そのくらいは想定内だ。
アテルムは私から逃亡を試みた。
しかし、それはあっさり失敗に終わる。
翼の一本が使い物にならないのだ。そのうえ、体に大きな傷を負っている彼は、少しだけ飛翔したと思うと、すぐに地面にたたきつけられる。
死にはしていないが、腹部を穴、それも腕と同等の大きさの穴が開いたのだ。
かなりの重傷みたいだ。
「もう終わりみたいね。」
少しだけ距離ができてしまったため、私はそいつに向かって歩きながら話しかける。
するとそいつはこちらを睨みつけながら、
「はぁ、はぁ、、来るなぁ!!この、天使の面汚しがあ!!」
と叫んだ。そしてそのすぐ後に咳をしながら口から血を吐いた。
その姿に、いつものような余裕は一切見られない。
それにしても、
「天使の面汚し、ねぇ。それなら、罪もない人に現在危害を加えているあなたたちは、いったい何なのかしら?もしかしてそれが天使だっていうの?」
私はそれだけ言ってアテルムの胸に腕を突き刺した。
それだけでアテルムの体は一切動かなくなる。
私はすぐに腕を引き抜き、死体となったそれを放り捨てる。
そして、倒れていた勇者のほうへ歩み寄った。
勇者は少し悔しそうな、それでいて安らかな、何とも言えない表情をしていた。
あの、私と初めて会った時からは想像のつかない顔だ。
このままにしておいてもいいが、それでは偶々見つけてしまった彼のパーティメンバーが悲しみで戦えなくなるかもしれない。
私は死んでしまった勇者には申し訳ないが、しばしの間カードとなってもらうことにした。
本来、【強欲】の特殊技能では生体はカード化できない。
それができてしまったということは、勇者は間違いなく絶命していしまったということだろう。
私は先ほどまで、勇者が横たわっていた、今は何もない地面を見ながら一言だけ
彼に対する賛辞を述べた。
「あなた、本当に勇者だったわね。」
そして私はここではない別の場所に向けて一直線に走り始める。
目標はヴェルが戦っている場所だ。
この街のことはよくわからないが、その戦闘の激しさゆえかどこに行けばいいかは一目瞭然だった。
私にはまだ倒さなければならない敵が残っている。
そう思い私は走る。
そしてその間、私が後ろを振り返ることは、一度もなかった。
ブックマーク、ありがとうございます!!
新しい話を書き始めましたので、一応URLを貼っておきますので、気が向いたら読みに来てください。
と、思ったのですが、URLがうまく貼れないので今しばらくお待ちください
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