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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第3章 異世界勇者到来
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第53話 勇気と最善

今現在、俺たちは研修でやらなければいけない依頼が溜まってきているので、今日の訓練はお休みさせてもらい、そちらを処理している。


今はその依頼の報告で、一度街に戻るところだ。


「もうそろそろ、街につきますね。」

「ああ、今回の依頼も大したことはなかったな。」

「もう少しですべて消化し終わるので、明日にはまた、マナリアさんの授業をうけられそうですね。」


そんなとりとめのないことを話しながら、俺たちは街に向かって歩いている。

今日、こうやって依頼を受けてみて気づいたことは、こういった仕事にもちゃんと意味があるということだろう。


少し前の俺は、銅級冒険者が受けるような仕事は面倒がってあまり進んでやらなかったのだが、ルークさんとの試合で少しずつ前に進むことの大切さを実感できたからだろう。


俺はこの依頼に少し誇りをもって挑むことができたと思う。


そして街が近づく。

あとはこのまま依頼を報告して、新しい依頼を受ける。これを数回繰り返すだけで研修時にやらなければならないことは完遂する。

そうすれば俺たちは何にもとらわれることなく、修行に専念することができる。

そう思うと、少し心躍らされる。


俺たちの師匠は少し厳しい節もあるが、確かに強くなっているという実感があるため、文句は出てこない。

ノーストリアも同様に楽しくやっているようだ。

そう思い進む俺たちの足取りは軽い。


しかし、


「あれ?何か騒がしくないですか?」


ダインが初めにそれに気づいた。

その言葉を聞いて俺は耳を澄ます。、、、、、確かに、何か聞こえる。


これは、悲鳴!?


「どこかで誰かが魔物にでも襲われているんでしょうかね?」

ノーストリアは一番ありそうな可能性をあげている。

恐らくそうだろう。それならば早く助けに向かわなければならない。

俺はパーティの中で一番感覚に優れるダインに聞く。


「ダイン!!声はどこから聞こえるかわかるか!?」


「お、おそらく、街の中からです。」


ーーーなに!?街の中だと!?


それはおかしくないか?街は壁に囲まれており、門の前には騎士が立っているため、この辺の魔物はまず入り込むことはできない。

それに入り込んでも、街の中に居合わせた冒険者に狩られるのがオチだろう。


それなのに、聞こえてくる悲鳴は鳴りやむ気配はない。


「おい!!急ぐぞ!!」

そこまで確認した俺は一目散に走りだす。

何か緊急事態が起こっていた場合、早めにそこに居合わせたほうができることが増えるからだ。


2人も一瞬遅れて「了解!!」という声とともに俺の後を追う。


これで何もなければ一番いいのだがな、そう思いながら俺は走った。

しかしその期待は裏切られる。

街に近づくにつれて、聞こえてくる悲鳴がはっきりとしてきているからだ。


しかも、遠目から確認できたが、門番として外を向いて立っているはずの騎士が内側を向き何かと対峙している。


「あれは!!」

ダインもそれが見えたのだろう。驚いたような声を上げる。


「何かわかったのか!?」

俺は走る速度を落とさずに問いかける。するとすぐに答えは返ってきた。


「あれは天使族です。しかし、本来人間にとって味方のはずの天使がなぜ!?」


天使?天使だって!?

その名前は冒険者学校にいるときに授業で聞いたことがある。

確か、人間族を導く神の使いだったはずだ。日本にいるときに聞いた話も似たようなものだ。


それが何故人間の街を襲っているのだ?

悪魔が出て、それと街中で戦うならまだしも、相手は人間だろう?

やはりこれは異常事態だ。

俺なんかが加わっても、意味なんてないのかもしれない。

だが、俺の足は止まることはない。


全く、勇者なんて称号をもらってしまったせいだろうな。

日本にいたころは、お世辞にも勇敢な者とは言えなかった。そんな俺がこうやって人を助けるために走っているのは十中八九、こいつのせいだろう。

しかし、今回はそれに感謝しないといけないな。


俺は自分自身を奮い立たせてくれる【勇者】の称号に感謝を述べ、騎士を手助けするべく走る。

元々、そこまで距離はなかったのだ。俺たちはすぐに騎士のそばにつくことができた。


そして騎士と対峙している天使を、横っ腹から切り裂いて騎士の男に聞く。


「おい!!この状況はなんだ!?何があった!?」


「わ、わかりませんが、急に天使の大群が攻めてきたのです。街のいたるところで戦闘が起こっており、対処に追われております。」


チッ、天使が相手なら外壁なんてないようなものだ、おそらくかなりの数が入り込んでしまっているだろう。

少し腑に落ちない点もあるが、今はみんなの安全が最優先だ。

俺たちは素早く作戦会議をはじめる。


「おい、どうしたらいいと思う?」

「僕は街を襲っている天使を各個撃破していくのがいいと思います。」

「私は助けを呼ぶのもいいと思うわ。確か、イルさんたちは今日この街に来ていないはずなの」


どちらの考えも間違いではない。

天使の数を減らしていけば、確実に被害は減らすことができるだろう。しかし如何せん数がおすぎる。

俺たちが数体倒したところで、それは誤差のようなものだろう。


だが、森の屋敷まで助けを呼びに行くのは時間がかかる。助けが間に合いさえすればかなりの戦力となってくれるはずだ。

俺はどちらがいいか思案する。

そこでまた、別の声がかけられる。先ほどまで戦闘中であった騎士のものだ。


「そういえば、最近あんたたちと一緒にいた奴が一際強そうなやつと戦っている。そいつを倒せばここは収まるかもしれん。」


そう言って騎士は俺とダインを指さした。

ということはヴェルさんとルークさんだろう。彼らは戦闘に参加しているらしい。

それ自体はいいことなのだが、一つ不安がよぎる。


彼らが負けてしまったら、それこそ一巻の終わりではないか?


ヴェルさんはよくわからないが、冒険者ギルドで見渡してみた限りでは、ルークさん並みに強い人は数人、居るかいないかくらいだった。

ルークさんは修行中、自分よりヴェルさんのほうが強いという意見を言い続けていた。

それが本当なら、今、この街ではヴェルさんが一番の戦力ということになる。


それなら彼の負けは事実上のこの街の敗北といっても間違いではないだろう。

だが、俺たちが助けに行ったところでできることはない。

むしろ守らなければいけない対象ができてしまい、足手まといになるだけだろう。


俺はもう、自分の実力を見誤ったりしない。

これは一度飛竜に負けた日の夜、布団の中で密かに立てた誓いだ。

これ自体には何の意味もないのかもしれない。だが、自分は自分のできる範囲の物事にしか手を出してはいけないというのは、この状況で最も重要視されることだろう。


俺はそこまで考えて、今後の方針を2人に話す。


「ダインは俺と一緒に来て、天使の数を少しでも減らすぞ。ノーストリアはイルさんたちを呼んできてくれ。」

そもそも、ダインとは一緒に特訓してきた中で、連携などがかなり上達してきてはいるが、ノーストリアとは違う。

どうしても、どこかで歯車が食い違うだろう。

そう判断した俺は彼女には増援を呼んでくるように頼む。


彼女もそのことが分かっているのだろう。

「分かったわ。二人とも、怪我しないでね。」

彼女はそれだけを口にして走って行ってしまう。


そしてそれを見届けた俺たちは各々、武器を構えて走り出す。



俺たちは俺たちにできることだけをしよう。


ここ数日の修行で完全に体に染みついてしまった言葉を思い出しながら、俺たちは天使めがけて剣をふるうのだった。

言っていませんでしたが、実はこの物語、折り返し地点を過ぎています。

あと半分もないので、よかったら最後までお付き合いくださると、助かります。

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