第51話 ダンジョンボスとの攻防 後編
攻撃を回避していいのは大きい。
それを証明するかのごとく、2分の時間稼ぎは簡単に終了する。
それと同時に私は叫ぶ。
「マナリア!!ぶっ込んじゃいなさい!!」
彼女はこの戦闘が始まってから、何があってもいいように常に魔法の準備をしていた。
今回はそれに頼ることにする。やってもらうのは結界の破壊だ。
せっかく時間が稼げても、こちらの攻撃が届かないのでは意味がない。その為結果の破壊は急務だ。
「了解ですよーイルさん!!」
どこか気が緩むような声がして、いつか見た雷光が私たちを包む結果にぶち当たり、それを消滅させる。
そして、結界が消えたのを確認した2人が同時に魔法を放つ。
「ファイア!!」「アイス!!」
唱えられたのはどちらも初級魔法だが、その威力はその枠組みに囚われない。
先に着弾したのはレンちゃんの魔法だ。
氷の魔法が熊の全身を凍りつかせる。だが、そこは魔物、巨大なこともあって体に内包する熱量も凄まじい。
まだこれだけでは絶命には至らない。
しかし、その直後にノーストリアの炎がその体を包み込む。
急激に冷やされた体を今度は急激に熱せられたその熊は、苦しそうに呻き声を上げて体から血を吹き出し、そのまま絶命する。
どうやら終わったみたいね。
「2人とも、お疲れ様。」
私は魔力を使い果たして座り込んでいる2人に声をかける。
2週間前はまともに魔法を使えなかった事を考えると、大きな進歩だ。
「ん、おつかれ、」
「お疲れ様です!」
2人とも無事みたいだ。私が守ったのだから当然と言えば当然のことだ。
むしろ、私の体の方が砂埃などを被った分見てくれが悪い。
2人は強敵に勝てたことに感動しているのだろう。
私の労いの言葉に返しはしたが、心ここに在らずと言った様子だ。
しかし、そんな2人が感傷に浸るのを許さないものがいた。
「ほら!!レンちゃん、ノーストリア、反省の時間ですよ!!」
情緒もへったくれもないわね。
マナリアはこちらに駆け寄ると直ぐに反省を始める。
2人も現実に引き戻されたのだろう。いつもの引き締まった表情に戻って話を聞く用意をしている。
「先ずは良かった点です。これは判断の速さですね。これはなかなかのものでした。」
それはそうね。私が攻撃方法に思い至った時にはもう既に準備を始めていたし、良かったと思うわ。
「ですが、壁役を1人に任せたのはいけませんね。どちらか1人は戦闘に残るべきでした。あれでは直ぐに前衛が抜かれてしまってやられてしまいます。」
確かに、あれは1人で抑えるのは骨だったわ。一撃一撃は重いし、速さもなかなかのものだった。
しかし、誰かが補助に回ってくれれば、少しは楽できただろう。
それを理解できたのか、2人はとても申し訳なさそうな顔をこちらに向けてくる。
余り気負わせても悪いだろう。
私は笑みを浮かべてそちらへ向かって軽く手を振った。
気にしないでいいという意味を込めての行動だったが、逆効果みたいだ。
2人はより一層、落ち込んだ雰囲気を見せる。
あんまり気にしても仕方ないのだけれど、まあいいわ。
「そして次は魔力の使用量です!!ここは地下10階ですよ!!ここで搾り尽くしてどうやって帰るつもりなんですか!?」
それはもっともな意見ね。今回はレンちゃんが『ダンジョンワープ』を使って入り口まで飛べばいいが、普通はそうはいかない。
ココで全て出してしまっては、帰路が危険になるだけだろう。
ちなみに、『ダンジョンワープ』は特殊技能扱いなので、魔力ではなく、体力消費だ。
こういう時でも、問題なく使用できる。ある意味、卑怯な技とも言えるだろう。
「そして最後、これは私ですね………相手が赤い熊と見て少しだけ侮っていました…」
そう言うマナリアの表情はとても暗い。
皆を危険にさらしてしまった事を悔いているのだろう。
これは少し、フォローが必要かしらね。
そう思って彼女に近づこうとした時、
「ん、きにしないで、いい」
「そうですよ!先生は悪くありません!!」
先程まで彼女から説教を受けていた2人が声をあげる。
マナリアはそれに感銘を受けたみたいだ。
少し硬直したあと、2人に抱きついて、
「うわあああああ!!本当にごめんねええ!!怖かったよねええ!!」
と叫ぶように言う。その顔には先ほどのような影はない。ただひたすらに、我が子を思う母親のような優しさが感じられた。
2人も、抱きついてくるマナリアを拒む事なく、それを受け入れる。
本当に彼女はいい生徒を持ったわね。
1人蚊帳の外の私は、その美しいとも言える光景を見ながら、そう思うのだった。
最近、なろうのポイントの話を少し読みました。
詳細は省きますが、初めての作品でブックマークをして下さる方がいることは、恵まれているのだと気付きました。
これからも更新は続けていきますので、ついてきて下さると、本当に助かります。
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