第49話 ダンジョンと赤い熊
「みなさん、結構魔法を覚えてきましたね。」
マナリアの授業で私達が魔法を覚え始めてから数日が経った。
私は今まで魔法は一切使えなかったのだが、彼女の言葉の通り強化系は問題なく使用する事ができる事がわかった。
まあ、私が使えたのは強化系の中でも自分を強化するものだけだったけど、
とまあ、そんな訳もあって私達は今ダンジョンにきている。
言わずと知れたレンちゃんのダンジョンだ。
「それでは今日は実戦で実際に魔法が機能するかを見ていきたいと思います。」
マナリアが今日の特訓内容を説明する。
ルールは1つだ。魔物と戦う時には魔法を主軸として戦う事、それだけだ。
だが、そのルールには少し問題がある。
「あの、マナリア?私はどうすればいいの?」
自己強化を主軸にって、それ、言って仕舞えば私は近接戦闘をやるって事よね。
いつもとやっている事変わらないじゃない。
「あー、イルさんは前衛で魔物の攻撃でも受け止めててください。」
要するに今回の趣旨とは離れるから私は肉壁をやれって事ね?
かわいい顔して言うことは酷くないかしら?
まあいいわ。そもそも、あくまでメインはレンちゃんなのだ。
私が我儘を言っても仕方ないだろう。
半ば自棄になっていた私を含めた一行はダンジョンに入る。
ちなみに、配置は前から私、ノーストリア、レンちゃん、マナリアの順だ。
戦闘力の低い2人を守る配置になっている。
第1層はレンちゃん曰く魔物が出ないようになっているらしいので素通りだ。
と言うか、それを聞いた時に気づいたのだけれど、これ、少しズルくないかしら?
ダンジョンの事を把握できるレンちゃんがいれば罠も奇襲も殆どないも同然だろう。
マナリアはレンちゃんの事をよく知らなかったのだろうし、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけどね。
地下1階、ここは入り口とそこまで離れていない為か、弱い魔物しか出ない。銅級冒険者でも、油断して囲まれたりしない限りは死なないだろう。
そして私達にとっての始めの魔物が現れる。
『ギギッ!?ギャアア!!』
普通のゴブリンね。数は3体だ。
これなら何も問題ないだろう。
ゴブリンはこちらに気づくと脇目も振らずに飛び込んでくる。
その手には錆びついた刃物が握られている。
当たっても死にはしないが、逆に痛そうだ。
「防御強化」
私は小さな声で魔法を唱え、攻撃に備える。
別に私が攻撃するわけではないので、防御力を強化する魔法だけだ。
私はゴブリンの攻撃を試しに素手で受けてみる。
ガツン!!………驚いたことに全く痛くない。それに調子づいた私はゴブリンを挑発して攻撃を促す。
そんな私とゴブリンとのやり取りなんて興味はないのだろう。
ゴブリンが次の攻撃をする前に、
「氷弾!」
と言う声と共に飛んできた氷の弾丸に貫かれて、絶命する。
氷の魔法と言うことはレンちゃんね。
そして時を同じくして「ファイアー!!」と言う声と共に、残りの2体を炎が包み込む。
確か、『ファイアー』は初級魔法だったはずなので、マナリアが言っていた手動調整魔法というやつだろう。
その魔法は中級魔法並みの火力を持ってゴブリン達を焼き尽くした。
初めての実戦でうまくいったことが嬉しいのだろう。レンちゃんとノーストリアはハイタッチをしながら喜んでいる。
「やりましたね!!レンちゃん!!」
「うん、ノーストリアも、よかった、」
手放しで喜ぶのはいいのだけれど、ノーストリアには1つ言いたい事がある。
「あの?ノーストリア?私に何か言うことはあるかしら?」
「あ、えっと、その、ごめんなさい!!」
味方が敵の近くにいる時に何故範囲を焼く魔法を使ったのかと言うことだ。
躱す事は出来たのだが、若干危なかった。
その様子を見ていたのだろう。マナリアが今回の戦闘の反省点を述べ始める。
「まあ、今回は敵が弱いこともあって上手くいきましたが、反省すべき点はあります。」
先ずはノーストリア。
これはさっき私がいった通り、味方ごと攻撃してどうするのか、と言うことだ。
まぁ、これは当の本人は反省しているみたいだし大丈夫だろう。
そして私、ヒヤヒヤするから戦闘中に遊ぶなと注意を受ける。
遊んでいたつもりはないのだけれど、周りからはそう見えているのだろう。
そしてレンちゃんだが、今回は何も問題なかったようだ。
そう言われたレンちゃんは、少し得意げに胸を張ってこちらを見てくる。
なんか物凄く可愛かったので抱きしめておいた。
そんな感じで、戦闘、反省を繰り返しながらどんどん先に進む私達は遂に地下10階まで到達した。
現在、私達は地下10階の入り口で休憩を取っている。
目の前の大きな扉が原因だ。
「これは、噂に聞くボス部屋というやつでしょうか?」
ノーストリアがそれを見て口にする。
「うん、あってる。ここはじゅっかいごと、に、ぼすが、はいちされてる。」
その質問に答えるのはまさかの製作者本人だ。
「へえー、よく知っていますね。凄いです。」
マナリアは感心したような声をあげてレンちゃんを見ている。
実情を知っている私としては素直に褒めにくいのが難点だな、と思いながら私もレンちゃんを見る。
「ちなみに、この先にはどんな奴がいるの?」
ずるいかもしれないが聞いておく。何かあってからじゃ遅いのだ。
「たしか、あかい、くま、をおおきくしたやつ?」
赤い熊って事はいつの日かヴェルがボコボコにしてたやつね。
「赤い熊、ですか、、」
マナリアがそれを聞いて難しそうな顔をする。
「えっと、行くんですか?」
ノーストリアもその魔物に心当たりがあるのだろう。ここで引き返すべきなのでは無いか、といった顔をしている。
そう聞かれたマナリアが少しだけ考えるような表現を使って、
「いいえ、行きます。行きましょう。」
と言う。どうやら勝てると判断したみたいだ。
そして休憩が終わった私達はその扉に触れる。
重そうな扉だったが、それは触れただけで開いてしまう。
そして私達が中に入ると同時、扉がひとりでに閉まり、部屋の中央から1匹の魔物が出現した。
レンちゃんのいった通り、巨大な赤い熊だ。
高さはざっと6メートルといったところか?思ったより大きいみたいだ。
その熊はこちらに気づいたのだろう。
体をこちらに向けると、大きく息を吸うような動作をする。
そして、
『グアアアァァァァァァァァ!!!』
と大口を開けて咆哮を放ち、こちらへ突っ込んでくる。
それを皮切りに、私達とその熊との戦闘が開始されたのだった。
ちなみに、赤い熊 (巨大)>マナリア >赤い熊




